長谷川幸洋『「成長戦略」などという幻想をメディアはなぜありがたがるのか』

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前回まで、日本のメディアが金融政策と財政政策をどう伝えてきたか、という問題を書いてきた。安倍晋三政権が推し進めるアベノミクスになぞらえて言えば、これは第1の矢(大胆な金融緩和+2%の物価安定目標)と第2の矢(機動的な財政政策)にかかわる話である。だからという訳ではないが、今回は第3の矢(成長戦略)について考えてみたい。

 メディアは安倍政権の誕生以来、アベノミクスについて大量の情報を伝えてきた。それでも、基本的な部分で誤解しているようなところがある。経済政策の手段と目標について、よく理解していないのではないか、と思えるのだ。

経済政策を考えるうえで重要な「時間軸」

 最初にはっきりさせなければならないのは「経済政策の目標は何か」という点である。それは、目先の景気を立て直すことでは「ない」。日本経済を「中長期的な安定成長期道」に復帰させることだ。「中長期」というところがポイントである。

 経済学の教科書は必ずしも中長期とはどのくらいの期間を指すのか、明示していないが、政策担当者の頭の中では普通、中長期といえば「3年から5年、さらに10年」といった時間軸をイメージする。

 これに対して「短期」というのは「目先の1~2年、長くてせいぜい3年程度」を指している。この時間軸の区別は非常に重要だ。「中長期的な安定成長を目指す」ことが政策の最終目標であるからには、目先の(したがって短期的な)「景気回復」は途中経過の目標にすぎない。

 これは「政権がそう説明している」という話ではない。どの政権であろうと、経済政策はそう考えるべきものだ。なぜなら、現在の経済学、経済政策論では、そういう時間軸の区別を前提にして成り立っているからだ。逆に言うと、時間軸を区別せずに政策を議論しても、それは「ないものねだり」か「ごちゃまぜ」の議論にしかならない。

 目先の景気回復はあくまで途中経過であり、最終目標の安定成長を実現するには、どうしたらいいか。そのために政権は何をしようとしているか。メディアはそういう視点で政策を評価すべきである。ちなみに、ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマンやスティグリッツといった世界の名だたる経済学者が、こぞってアベノミクスを支持しているのも、それが世界標準の考え方に沿っているからだ。

 政策の時間軸を短期と中長期でしっかり区別したうえで、短期の景気刺激には財政金融政策の発動、中長期の安定成長実現には「成長戦略(ただし、これには後で説明するように留保付きだが)」という役割分担になる。

 アベノミクスで言えば、第1と第2の矢は目先の景気回復、第3の矢は中長期の安定成長という切り分けである。ここを間違ってしまうと、目先の景気回復のために金融緩和をしているにすぎないのに「それは安定成長に役立たない」といったような混乱した話になってしまう。

 景気回復は途中経過の目標といっても、けっして軽視するわけではない。マラソンで途中の経過地点を通過しなければ、最終ゴールに辿りつけないように、目先の景気回復を実現しないことには、中長期的な安定成長も目指せない。

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