西洋医学と東洋医学、少なくとも2000年前から交流があった!

古くて新しい漢方医学の魅力
渡辺 賢治 プロフィール

江戸時代の平均寿命が50年もなかったことを考えると、今みたいな長寿を享受できるのは現代人の特権のように思っていたため、オーバーな表現だと感じた。

しかし、聖書に書かれている人間の本質が今と全く変わらないことに思いを馳せる時、ここに書かれた100年という寿命はあり得ることかもしれない。科学が進歩した21世紀に生きるわれわれが古代の人よりもすべてにおいて優れているというのは尊大なる驕り高ぶった幻想であろう。

そう考えると漢方を古臭い過去のものと決めつけるのは早計であることに同意していただけるであろうか。

現在医療用漢方製剤として使われている処方は148あるが、その半数近くが後漢の末(紀元200年頃)に長沙の太守であった張仲景がそれまでの治療法をまとめたとされる『傷寒論(しょうかんろん)』『金匱要略(きんきようりやく)』を出典とする薬である。日本の漢方医学はこの二書を重んじて発達してきた。

実際日進月歩の医学の世界にあって、漢方の専門家は1800年前の書物をバイブルのようにして読み込んでいる。何故そんな古い本を読むのか、と問われれば、答えは「現代でも立派に通用するから」ということになる。

有名な葛根湯(かっこんとう)も『傷寒論』に記載された処方であるが、今でも効果の高い風邪薬である。それが普遍的に効果があるのは、人間の本質が変わりないことに加えて、そこに書かれている処方が今でも再現できることにある。

『傷寒論』には数多くの処方があるが、複数の生薬をある配合比で混ぜて、煎じるように指示がある。それはまるで料理のレシピのようである。

さらに「葛根湯」と名付けたことで、一つのアイデンティティーが生まれる。すなわち現代の医師も1800年前の医師も「葛根湯」で同じような処方を思い浮かべることができる。厳密には量の記載が現代とは異なるため、正確に配合比を再現できてはいないのかもしれないが、1800年の時を隔てても、同じような病に同じ薬を使って治しているかと思うと、時空を超えた不思議な感覚におそわれる。

しかし、伝統をそのままの形で受け入れて古いものに拘泥しているわけではない。現代社会に適応する形で変化を遂げている。古くて新しいもの、それが漢方の魅力である。

漢方Photo by Getty Images

たとえば大建中湯(だいけんちゅうとう)は今では腹部の手術の後に腸閉塞の予防のために外科領域で幅広く使われている。大建中湯は『金匱要略』には体が冷え切ったがために、嘔吐して食事をすることができない時にのむ薬として記載されている(腹満寒疝宿食病篇)。腸閉塞を思わせる記述であるが、もちろん1800年前には外科手術はないので、手術後にのむなどということはしなかった。まさに現代的な新しい使い方である。

同様のことは多々ある。半夏瀉心湯(はんげしゃくしんとう)は『傷寒論』に記載されているお腹の薬であるが、今では抗がん剤による下痢を止めるために使われることがある。下痢のために抗がん剤が続けられなくて困っている人が、半夏瀉心湯の助けで抗がん剤を続けることができ、がんも克服できることがあるのである。

小青竜湯(しょうせいりゆうとう)は『傷寒論』では感染症の薬であるが、今では花粉症などのアレルギー性疾患に使われることが多い。

こうした工夫は現代医学の批判を浴びながら、それとつかず離れずで、漢方医学そのものが発展してきたたまものである。