二宮清純レポート 楽天・捕手嶋基宏 野球センスは平凡それでもトップになれる

週刊現代 プロフィール

「チームづくりにおいて捕手は大事なポジション。嶋は声がよく出るし、しっかり話もできる。練習態度も素晴らしい。足りないのは経験だけ。これは鍛えれば何とかなると思いました。

 実は僕の教え子には他のポジションからキャッチャーにコンバートしてプロに行った選手が二人いるんです。中日に入った鈴木郁洋と横浜に入った新沼慎二。学生時代に、しっかり基本さえ叩き込んでおけば、プロで伸びていく。

 そのためには研究心が重要です。嶋は自分たちの試合がない日でも球場に行って、他校の試合を見ていた。スカウトの間では"今日も嶋が来ているぞ"と話題になっていたそうです」

 戦国東都でもまれたとはいっても、4年の春までは、ずっと2部暮らし。1部でプレーしたのは4年の秋だけだ。

 初めて戦う1部の舞台は、それまでとはレベルが違っていた。特にピッチャーがそうだった。

「エース組にはウチに入ってきた永井怜(東洋大)、福岡ソフトバンクの大場翔太(同)、東京ヤクルトに行った高市俊(青山学院大)らがいたんですが"こいつらがプロに行くんだな"と思っていました」

 それでも嶋は4年秋のリーグ戦でベストナインに選出されている。他校の試合にも熱心に足を運び、ネット裏から視線を送り続けた探求心と向上心が最後のシーズンで実を結んだのだ。

 嶋を一躍全国区にしたのは入団5年目、東日本大震災後のスピーチである。

 '11年3月11日、午後2時46分。明石で千葉ロッテとオープン戦を行っていた。試合中、東北地方を中心に大地震と大津波が発生したことを知らされ、ゲームは打ち切りとなり、宿舎へ帰るバスに乗り込んだ。車内のテレビが映し出す光景は、およそ想像を絶するものだった。

「いろんな人に電話したんですけど、ほとんどつながらない。いったい、この先どうなってしまうんだろうと……」

 死者約1万6000人、行方不明者約3000人、避難者45万人超。楽天の選手たちが本拠地の仙台に戻れたのは大震災から約1ヵ月後のことだった。

 プロ野球の開幕も予定より約2週間遅れた。開幕前の4月2日、復興支援と銘打ったチャリティーマッチが行われた。

 楽天は札幌ドームで日本ハムと対戦した。試合前、被災地球団の選手会長である嶋がマイクの前に立った。そして、こう切り出した。

「あの大災害が本当だったのか、今でも信じられません」