二宮清純レポート 楽天・捕手嶋基宏 野球センスは平凡それでもトップになれる

週刊現代 プロフィール

 この年のことだ。嶋について聞くと、野村は「僕はキャッチャーを育てるのが下手なんですよ」と自嘲気味に言い、こうボヤいた。

「この前、嶋に聞いたんです。"少しはバッターの反応を観察して狙い球を読めるようになったか?"と。すると"全然わかりません"と言うんです。それで"なに!?"と怒ると、"ときどき、わかることもあります"とこうですよ。

 キャッチャーは右目でボールを見て、左目でバッターの反応を見る。それが仕事なんです。2年も黙ってやらせたのに"わかりません"じゃ、成長していないも一緒。嶋には何が何でもバッターが考えていることを見破ってやろうという執念が足りない!」

 野球選手にとって、最も辛いのは叱られることではない。干されることである。自らには何が足りないのかと悩む日々。真面目な性格が仇となり、嶋は迷路の中をさ迷った。

 対岸のベンチから、悩める若きキャッチャーの姿はどう映っていたのか。現役時代、ダイヤモンドグラブ(現ゴールデングラブ)賞に4度輝いた名捕手・梨田の回想。

「嶋はキャッチャーとしては、割ときつい性格だと思うんです。野村さんに干された原因も、そこにあったのかもしれない」

 それは、どういう意味か。

「キャッチャーはね、たとえ配球について監督に叱られても"ピッチャーが構えたところに投げてくれないんです"と言い訳しちゃダメなんです。執拗に説教されても"全部、僕が悪い"とひとりで責任をかぶらなければならない。そうすることでピッチャーの信頼を得られるんです。確かに野村さんとの3年間は辛いことのほうが多かったでしょうけど、今は役に立ったと本人も思っているんじゃないかなぁ……」

一度は選手を諦めた

 梨田の意見を嶋にぶつけてみた。

「そのとおりです。最初の頃は、あまりにもいろいろ言われるので、正直、"何言ってんだ?"と心の中で思ったこともあります。でも、今、思えば全て僕の基礎になっているんですね。たまに古いノートを見返すんですが、"あぁ、なるほどな"と納得することがいくつもあります。だから今は本当に感謝しています」

 嶋のキャッチャー歴は、まだ浅い。大学に入ってからだから、実際には10年くらいだ。高校までは内野手だった。

 キャッチャー転向の経緯を紹介する前に、簡単にアマチュアでの球歴を振り返っておこう。

 高校は春夏合わせて10度(当時)の全国優勝を誇る中京大中京。嶋も3年の春に1度だけ甲子園に出場している。初戦敗退だった。