特別対談 保阪正康×福田和也
金持ちになることは幸福なのか、不幸なのか

週刊現代 プロフィール

福田 もともとは米相場で財をなした人で、後に山種証券を作り、山種美術館を設立しました。高等教育を受けていない人ですが、優れた審美眼の持ち主で、まだ無名だった頃の速水御舟などの日本画をいち早く買っています。

 あとは、石橋正二郎(ブリヂストン創業者)が設立したブリヂストン美術館も良い絵がそろっています。

保阪 絵画のコレクションでは山種と石橋が双璧をなすわけだ。

福田 一方で、カネにあかせて高い絵を買いあさり、顰蹙を買ったのが大昭和製紙(現・日本製紙)社長だった斉藤了英。バブル期に100億円以上を出してゴッホやルノアールの絵画を買った挙げ句、「死んだら棺桶に入れて一緒に焼いてくれ」なんて嘯いたものだから、世界中の美術愛好家から「文化遺産を灰にするつもりか」と批判された。

 美術品のコレクターとして忘れてはいけないのが福富太郎(キャバレー『ハリウッド』経営者)ですね。僕も見せてもらったことがあるのですが、藤田嗣治などの名画が揃っています。

保阪 彼はキャバレーを大衆化させた人ですね。経営する『ハリウッド』は最盛期には全国に100店舗くらいあって、高度成長期のサラリーマンを相手に安い料金で酒と女を提供した。

福田 彼がうまかったのは、子どもを持つホステスさんも安心して働けるようにと、店の近くに託児所を用意したことですね。

保阪 あの当時は、女性ひとりで稼ぐ手段がほとんどなかった時代で、そこを引き受けてくれたのが福富さんだった。昔の経営者にはそういう志がありました。

 鹿島守之助(鹿島建設元社長)も面白いですよ。あまり知られていませんが、鹿島は出版事業で文化向上に寄与したいと言って、『鹿島研究所出版会』を設立した。建築やデザインの本が多いですが、『日本外交史』など、外交関係の貴重な資料も出版している。

正しいお金の使い方

福田 鹿島はどこの書店も自分たちの本を置いてくれないからと、八重洲ブックセンターを作ったんです。だからあそこには現在でも鹿島コーナーがある。

 また、モータースポーツを日本に広めたという意味では、本田宗一郎はすごいと思います。F1に参戦して初めて優勝したレースの後、宗一郎はクルーを日本料理店に集めて「ありがとう。これで俺は本望だ」と語ったとか。会社を大きくするというより、とにかく一番、速いクルマを作りたいという執念があった。

保阪 息子に後を継がせなかったというのも、本田宗一郎らしいですね。毛並みなんか関係なしに、実力のある人間を登用する。

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