◆その1:「一人当たり国民総所得」に騙される安倍総理
●成長率を高く見せたいという下心
アベノミクス第三の矢として注目を集めた成長戦略。その内容は、予想通り、飛距離不足で的外れなものとなった。あまりのお粗末さに市場もはっきりNOをつきつけ、株価は暴落後乱高下を繰り返している。
慌てた安倍総理は、秋に追加の成長戦略を出すと発表した。「今回は中身がないけど、秋になればもっといい話があるよ」ということなのだが、市場からは、やるなら「今でしょ!」という流行語が聞こえてきそうだ。
当初、三回に分けて成長戦略を発表する時、何故か安倍氏は嬉しそうに、時には誇らしげに見えた。市場では、「あんなに中身がないのに何故そんな顔ができたのか?」「実は、安倍総理は、経済音痴なのでは?」という疑念が生じた。
そんな不安を増幅したのが、安倍氏による「年収150万円増加発言」だ。
骨太の方針素案に掲げられた「一人当たり国民総所得150万円増」という公約。繰り返し報道されたので、既にご案内の方も多いだろうが、一年間に「国内」で新たに生み出されて取引された商品とサービスの総額である国内総生産(GDP)に「海外」からの所得(日本からの支払いを差し引いた純所得)を足したものが国民総所得であり、GNIと称される。
つまり、海外からの所得が差し引き黒字ならGNIの方がGDPよりも大きくなる。日本では、人口も減少するし、自民党時代の失われた20年の間に国内での成長ができにくい経済になってしまったのに対して、海外へ出て行った企業の稼ぎは相対的に伸びが高いので、GDIを使えば、成長率は高く見える。
(略)
数字を見てみると、平成23年度は、GDPが473兆円なのに対してGNIは488兆円と10兆円以上GNIの方が大きい。GNIを総人口で割ったものが「一人当たり国民総所得」であるが、これは平成23年度に約382万円だった。これを10年間で150万円増やすというのだから、およそ39%増えるということだ。
●円安効果も計算済み
安倍氏は、各地で「10年間で皆さんの年収は150万円増えます」などと嬉しそうに宣伝した。「一人当たり」「国民」総「所得」が150万円増えると言うと、いかにも「国民一人一人の」「給与」が150万円増えるかのような響きがある。国民が勝手に勘違いしてくれるといいな、と官僚達は思ったのだろう。しかし、これは全くの誤りだ。
GNIには、企業の所得も含まれるから、企業の取り分が増えるだけで労働者の給料はあまり増えないという可能性も十分にある。しかも、安倍政権は、消費者物価上昇率を年2%にするという。これが10年間続くと物価は約24%上がる。もしも給料がそれ以上、上がらなかったら実質ではマイナスで、生活は貧しくなるということだ。・・・・・・