アベノミクスで「持続可能な成長」は生まれない
神谷秀樹「人間復興とイノベーションだけが日本経済を再生させる」

 次いで日本政府がアベノミクスの「第三の矢」である、産業育成ならびに構造改革案を出すと、これに投機家たちは失望し、日本株を売り払い、同時に米国株も下落した。このように、いわゆる「金融相場」には何ら実体がない。まるで、足がない幽霊のようなものである。小さなニュースに反応し、大きく価格変動する。

 これまでも、バブルは何度も起きている。借りた金による資産価格上昇への投機がその根因だ。

 しかし、今回起こっていることは、これまでのバブルとは大きく性格が異なる。これまでの投機は民間主体で行われ、中央銀行は火消し役となって、投機を抑制するように働いていた。

 しかし、今回は中央銀行そのものが「火付け役」となり、あらゆる証券市場に投機の火をつけて回っている。「火消し」が存在しない。それだけに、大惨事を招く危険性が高い。

 アベノミクスは円安を招き、それを「成果」だと言う。しかし、円安で燃料が高騰し、イカ釣り漁船や、サンマ漁に出る漁師が「これではとても利益が出ない」と操業を停止した。運送料金を値上げできないトラックの運転手が、燃料高騰に耐えかね、「これではもう荷物を運べない」と嘆いている。

 温室栽培をする農家は、灯油代の上昇や、出荷に使うトラックのガソリン代の上昇に苦しんでいる。日本国内で牛を育て、牛乳を出荷する農家では、牛乳の価格は上げられないのに、牛に食べさせる飼料が高騰した。いったい、「誰のための経済政策」なのか。

貧富の差は拡大し、大企業への所得移転が起こるだけ

 かつて自民党が政権を担っていたときに行った政策は、まず無秩序な財政支出(「平成の借金王」を名乗った首相がいた)を行い、円安によって輸出ドライブをかけ、国際競争力を失ったゾンビ企業を保護する、というものであった。加えて、賃金を下げるため、それまでの社会契約であった終身雇用を破棄し、多くの社員を契約社員化した。

 財政支出の拡張は世界最悪の財政赤字を招いたが、今回、自民党は補正と併せて100兆円を超える予算を組んだ。契約社員化の推進は日本の中産階級の崩壊を招き、貧困率は米国と同様に15%を超えた。しかし、経営者側はさらに首切りの自由化を求め、それが重要な構造改革だと言っている。

 政府は「アベノミクスは賃金上昇に繋がる」と喧伝する。しかし、先に述べたように、輸入原材料で成立している産業は円安に苦しみ、賃金水準がまったく異なる発展途上国と価格競争している輸出産業でも、コストカットが至上命令で、賃金上昇の余地は乏しい。

 契約社員の増加により、貧富の差は拡大し、ゾンビ企業は結局、エルピーダのように破綻し、海外企業に安値で売却することになる。やれエコポイントだ、やれ何だと、声の大きい産業(主に大企業)への血税を使っての所得移転と、需要の先食いが起きただけで、後が続かない。

 このような経済政策で、「持続可能な経済成長」が起こるはずがない。いったい、「何のための経済政策」なのだろう。