アベノミクスで「持続可能な成長」は生まれない
神谷秀樹「人間復興とイノベーションだけが日本経済を再生させる」

 もう一つ、パーソナルメディスンの分野の例もいくつか取り上げた。今、遺伝子解析が格段に進み、医療の在り方が根本的に変わろうとしている。国家的な規模のがん予防「ムーンショット」からごく小さい企業レベルの開発まで、先進的にパーソナルメディスンに取り組んでいる例を、人を中心に記述した。

 第3章では、私と私が市民権を得たアメリカとの関わりについて振り返った。アメリカは、大きな問題をいくつも抱えている「強欲資本主義」の本家本元だ。

 しかし、日本でも最近上映された映画『リンカーン』に描かれたように、「奴隷解放」から150年、マーチン・ルーサー・キング牧師の「ワシントン大行進」からたった50年で、黒人のオバマ大統領を一期ならず、二期再選するところまで来た。永い道のりを越えて、大きな社会的進歩があった。

 オバマは、2008年の選挙では「チェンジ」を訴え、2012年の選挙ではその「チェンジ」をさらに前進させるべく「フォワード」を訴えた。リーマン・ショックからの経済復興がいまひとつで、失業率も高い最中だったが、国民はこの大統領の首を差し替え、共和党に戻るという選択はしなかった。

 一方、日本の有権者は、よちよち歩きでふがいなかった民主党を切り捨て、自民党の「55年体制」にさっさと戻ってしまった。最近、安倍首相の「ジャパン・イズ・バック」という言葉が海外でよく使われる。彼の意図は「日本が、政治経済の華やかなる国際舞台の中心に戻ってきた」という点にあるのだろうが、そうは私の耳に響かず、「55年体制にバックした」というようにしか受け取れない。

 日米の経済の狭間に生き、両国の政治経済社会を見てきて、私が訴えたいのは「いったい誰のための、何のための経済成長を我々は標榜するのか」ということだ。

中央銀行がバブルの火付け役となって、大惨事を招く

 第4章では、上記を受けて、今後の日本の経済社会の復興に関して重要と思うポイントをいくつか提言させていただいた。

 「日本人による、日本のための経済復興」をするための要諦は何か。日本は日本人の長所を伸ばしてこそ伸びることができるが、その長所とは何か。私が外から見ていて認知するところを披露申し上げた。そして、物質文明に浸っていると失いがちになるけれども、本来、日本人が持っていた価値ある尊いもの、失ってはいけないものについて考察した。

 今の日本を見てみよう。アベノミクスの「異次元」(私は単に「異常」と呼ぶべきだと思うが)の金融緩和によって、円が下落し、株価が上昇し始めると、多くの国民が拍手喝采した。しかし、私は直ちにこの政策を断罪し、「アベノミクス 危険な熱狂」という論考を『文藝春秋』4月号に発表した。

 6月に入ると、米国景気の回復基調により、連邦準備制度(米国の中央銀行に当たる)が行ってきた、これも異常な水準の量的緩和策である「QE3」を抑制するかのようなニュースが流れ、また、中国経済の成長率鈍化が予想されるようになった。すると、日本の株価は急落した。