内向型人間の時代 社会を変える静かな人の力
スーザン・ケイン(著),古草 秀子(翻訳)

〜はじめに――内向型と外向型 対照的な二つの性格について より抜粋

 あなたが内向型なら、物静かな性質に対する偏見は心を大きく傷つけることがあるのをご存知だろう。子供の頃、あなたが内気なのを親が残念がっているのを耳にしたことがあるかもしれない(私がインタビューしたある男性は、「どうしてケネディ家の子供たちみたいになれないの?」とケネディ信奉者の親にくりかえし言われたそうだ)。あるいは、学校で「殻に閉じこもっていないで、もっと元気に」とハッパをかけられたかもしれない。このいやな表現は、自然界には殻をかぶったままどこへでも移動する動物もいるのだから、人間だって同じなのだという事実を認識できていない。「おまえは怠け者だとか、頭が悪いとか、グズだとか、子供の頃に言われたことが今でもまだ耳の奥に残っています。自分はたんに内向的なだけなのだと理解する年齢になる以前に、自分は本質的にどこかが間違っているのだという考えがすっかり染みついていました。今でもそんな疑いがほんの少しでも残っていたら、きれいさっぱり取り除きたいです」と、〈内向型人間の避難所〉というメーリングリストのメンバーは書いている。

 大人になっても、夕食の誘いを断って好きな本を読みたいと思うときに、あなたはかすかな罪の意識を感じるかもしれない。あるいは、レストランでひとりで食事するのを好み、周囲の人々からかわいそうにという目つきで見られても意に介さないかもしれない。あるいはまた、物静かで知的な人に対してよく使われる、「あれこれ考えすぎる」という言葉を浴びせられることがあるかもしれない。

 言うまでもなく、そういうタイプの人間を表現するには、「思索家」という言葉がふさわしい。

 内向型が自分の能力を正当に評価するのがどれほど難しく、それをなし遂げたときにどれほどすばらしい力を発揮するか、私はこの目で見てきた。一〇年以上にわたって、法人顧問弁護士から大学生、ヘッジファンド・マネジャー、夫婦など、さまざまなタイプの人に交渉スキルを教えてきた。もちろん、その内容は交渉前の準備からはじまって、最初のオファーを提示するタイミング、相手が「イエスかノーか決めてくれ」と迫ったときにどう対応するべきかといった基本的なものだ。けれども同時に私は、顧客が自分の生まれ持った性格を知り、それを最大限に活用する方法を身につけるのを手助けしてきた。

 最初の頃の顧客に、ローラという女性がいた。ローラはウォール街の弁護士だが、物静かで夢見がちな性格だった。注目されるのが苦手なうえに攻撃されるのも嫌いだった。彼女は円形劇場を思わせる広い階段教室で授業をするハーバード大学ロースクール(法科大学院)での厳しい試練をなんとか乗り越えたわけだが、授業中に緊張のあまり吐いたことがある。社会に出て職に就いたものの、顧客企業の代理として期待に応えて激しく主張できるかどうか、強い不安を感じていた。

 最初の三年間、下っ端のうちは、自分の能力を確かめる機会がなかった。だが、あるとき上司の弁護士が休暇をとったので、重要な交渉案件を任されることになった。顧客である南米の製造会社は銀行ローンの債務不履行に陥ろうとしていて、貸し付け条件の再考について交渉を望んでいた。相手方はローンを融資している銀行団だった。