日本時間の7日夜、米労働省の雇用統計の発表を受けて、ニューヨーク株式相場が前日比207.50ドル高と続伸したことに、すでに週末の休暇に入っていた東京市場関係者たちも安堵したようだ。
5月23日にはざら場の高値で1万6000円に迫った日経平均株価は急落を繰り返し、「頼みの綱」となっていた米景気・金融政策の動向次第では1万2000円という防波堤も割り込みかねないとの見方が支配的になっていた。
取材をしても、米国株の上昇を受けて週明けの急落は回避できそうだと胸を撫で下ろす関係者が多かった。
一貫してアベノミクスへの過剰な期待には警鐘を鳴らしてきたので、株安を根拠に批判を展開している一部メディアの議論に組みする気は毛頭ない。
が、昨秋以来の世界同時株高をリードしてきたはずの日本経済への復活期待がいつの間にか萎み、相場動向はアメリカ次第というムードに一変したことを不思議に思う読者は少なくないはずだ。
その原因を探っていくと、アベノミクスに欠けている「第4の矢」の必要性が浮かび上がってくる。
「非農業部門の雇用者数は、前月比で17.5万人の増加」---。
5月の米雇用統計をどう評価するか、日本時間の7日午後9時15分過ぎにその結果が伝えられた直後は、米市場も戸惑いを見せた。
というのは、増加数が中途半端で、「買い材料」とみるか「売り材料」とみるか判断しにくい状況だったからだ。
市場では、発表前に、「売り材料」というコンセンサスができつつあった。
増加数が15万人以下ならば、米景気回復の足取りが弱いと判断されて、米連邦制度理事会(FRB)の大胆な金融緩和策が引き続き維持されるので「買い材料」、逆に20万人以上ならば痛み止めの麻酔のような金融緩和の終了時期が早まるからだ。
ところが、17.5万人というどっちつかずの指標が出てしまって、市場の反応を確かめたいとのムードが広がったのである。
外為市場が1ドル=95円台で始まり、94円台まで買い進まれる場面があったため、一時は日本の株式相場にはマイナスとの落胆が関係者の間に出かけた。
しかし、最終的にニューヨークダウが大幅に続伸し、円も1ドル=97円50銭から60銭近辺で取引を終えたことから、日本の株式市場関係者は土曜日の朝、胸を撫で下ろしていた。
日々の値動きに限れば、株式相場は上にも下にもオーバーシュートしがちなもので、大袈裟に一喜一憂するのはナンセンスだという議論は当を得たものだ。
株価急落局面でテレビの情報番組から大袈裟なコメントを求められて無責任なことは言えないと感じた時には、筆者も口にする言葉である。
しかし、米国の5月の雇用統計には、「日々の売買材料」で終わらせず、構造的なものとして注目してほしいポイントがある。