話題の本の著者に直撃!野村克也
負けたとき、失敗したときにその人間の価値が決まるんです

フライデー プロフィール

 弱者は強者と同じことをやっていても絶対に勝てません。ですから、正攻法だけではなく奇策を組み合わせる。弱いチームはどうしても奇襲が多くなるんです。そして、奇襲を行う時期はプロ野球なら4月。そうすると相手が、それを1年間マークする。何をやってくるかわからないという思いでこちらを見てくる。ここで走ってくるだとか、勝手に警戒してくる。それで、やるぞ、やるぞと思わせておいてやらない。こうした戦略は弱いチームならではの楽しみでもありますけどね。

 他にも「敗者は変化を恐れない」ということも挙げることができます。勝者は変わることを好みません。それで失敗するかもしれないから、変わる勇気を簡単には持てない。一方、敗者は変わることを厭わない。危機感があるからなりふりかまうことがない。勝者よりも進歩しやすいんです。

 監督時代、ミーティングで選手たちに「野球とはなんぞや」と毎度問いかけました。ところが、答えられる選手はほぼ皆無。野球は頭を使うことなんです。投手の一球一球の合間がこんなにあるスポーツは他にない。つまり、その間、頭を使えということなんです。それがなかなかわからない。

—敗者から勝者へ。己を変えるためには、自らを知ることが大事だと思いますが、これがなかなか難しい。

 自分のことは知っているようで、わかっていませんからね。それを気づかせてくれるのも失敗したときが多い。だから、恥をかけばいい。失敗=恥なんです。誰だって恥はかきたくないので、二度とそんな思いをしたくないと行動するようになる。ただ、いまの子は恥ずかしいことを恥ずかしいと思わないところがある。ヤクルト監督時代のことです。エラーをした選手がベンチに戻ってきて、控えの選手が「ドンマイ、気にするな」と出迎えた。それを聞いて私は怒りました。エラーが恥ずかしいことだと認識しなければ反省しないから。阪神の監督に就任したときも、選手たちに「恥の意識を持て」と言いました。「人間の最大の罪は鈍感である」というトルストイの名言がありますが、一番厄介なのは恥を恥とも思わない鈍感さ。原因を突き詰めると、親のしつけにたどり着くからなんともいえんけど。

—監督として史上5位の勝利を挙げると同時に1563敗と、最多の敗戦も経験しています。弱いチームの監督を引き受けながら通算で勝ち越すことができているのは、明日勝つために今日の負けを活かすことができたからなのでしょうね。

 勝ち越しなんて自慢にならないですよ。ただ、負け越さなくてよかった。それは唯一の救い。1565勝1600敗とかじゃ、恥ずかしい。まぁ、最下位のチームばっかり監督したという逃げ道はありますけどね。でもこの時代に監督を長くやったということは胸を張れる。自分がやりたいと思ってもできる仕事じゃない。それを24年やったということは、人が評価してくれたということだから。