危機において求められるリーダーシップとは。最悪のシナリオを回避するための危機管理とは---。
世界をリードする経営学大学院Wharton School(ウォートン・スクール)のグローバル・フォーラムが5月24日パレスホテルで開かれ、「Risk, Challenges and Opportunities: Lessons learned from 3/11(リスク、挑戦、機会:3/11から学ぶ教訓)」と題したパネルでは、2011年3月11日の東日本大震災から学ぶべき危機管理とリーダーシップの教訓について、政府・民間・非営利の代表者らによる活発な議論が交わされた。
【モデレーター】
ペンシルベニア大学ウォートン・スクール エリック・オルツ教授 (Eric W. Orts, Guardsmark Professor; Professor, Legal Studies and Business Ethics and Management, Director, Initiative for Global Environmental Leadership, The Wharton School)
【パネリスト】
公益財団法人絆ファウンデーション 代表 北濱哲氏
元内閣官房・内閣審議官、ジャーナリスト 下村健一氏
SBエナジー株式会社 取締役副社長 藤井宏明氏
JX日鉱日石エネルギー株式会社 常務執行役員 細井裕嗣氏
まず、オルツ教授から各パネリストに対して、東日本大震災を通じてそれぞれが経験した困難な決断やリーダーシップチャレンジについて、発言を求めた。
震災当時、内閣審議官として菅総理の広報アドバイザーを務めていた下村氏は、首相官邸で大きな揺れを感じた一人だ。下村氏は、震災直後の官邸がリーダーシップを発揮するうえで最も難しかったのは、「情報の決定的な不足」だったと語った。
「当時、我々の周りには(この事態に対処する)国内の最高レベルの諸機関の"専門家"が集まっていた。しかし、原発の状況が分からない中で、彼ら専門家でさえも呆然自失となり、途方に暮れていた。総理が次にどのような手を打つべきか尋ねても、専門家達は目をそらすばかり。まるで宿題を忘れて叱られるのを恐れる生徒のようだった」
こうした危機的な「専門家の停電状態(Black out of the experts)」(下村氏)の中で、菅総理や枝野官房長官ら官邸首脳は、以下の3原則の対応方針で臨んだ。①悪い情報でも決して隠さないこと、②不確かな情報は決して発表しないこと、そして、③やり過ぎて批判されることを恐れないこと。例えば、情報が錯綜する中、住民への避難勧告を出す際には、彼らから提示されたいくつかの選択肢の中で、常に最大半径の避難勧告を官邸は選択した。しかし、それでも世間からは度々情報開示の遅れについて批判された。
下村氏は、こうした苦い経験を踏まえ、危機時におけるクライシスコミュニケーションにおいては、とにかく「氷山の一角ではなく、全体像を示すこと」が重要だと説く。当時、官邸内では手元にある情報を上記3原則に照らして開示するか、しないか、の二択で判断していたという。しかし、次にもしこうした事態がおきた際には、第3の選択肢---結論(氷山の一角)を告げる政府高官の記者会見だけでなく、その結論に至った過程(氷山の水面下部分)を示す「議事録」や「Q&A」などを同時に公開するといった方法で、不確実な情報を含めた災害の全体像について公衆に伝えるべく準備すべきだと提言する。