大特集「遺伝するがん」あなたは発病前に切りますか 米国の女優アンジェリーナ・ジョリーは事前に乳房を切除しちゃったけど

週刊現代 プロフィール

 実は、男性にBRCAの変異がある場合、前立腺がんのリスクが高まる。彼を担当していた医師は、彼の親族に乳がんや前立腺がん患者がいたため、前立腺摘出手術に踏み切ったという。果たして、摘出した前立腺からはがんが見つかった。

 この場合、期せずして予防切除ではなく、がんそのものの手術になったわけだが、手術開始時点ではただ前立腺を摘出するつもりだったはずである。前立腺を失えば射精はできなくなるため、通常の意味での生殖能力は失われる。これは、いま53歳のこの男性にとっては重い選択だったろう。

 またアメリカでは、ある一族が胃がん予防のため、まだがんを発症していない胃を、揃って全摘出したという事例もある。この一族では、以前から胃がんによる死者が6人も出ていた。そこで親類19人が遺伝子検査を受けたところ、そのうち11人に、スキルス性胃がん発症リスクを高める遺伝子"CDH1"の先天的変異が見つかったのだ。遺伝性がんが、まさに家族の問題でもあることを示す出来事である。

「遺伝子検査にもとづいた予防的切除術は、今後日本でも取り組む医療機関が出てくるでしょう。ただ、その人が本当に将来がんになるかどうかは分かりませんし、どんなに技術が進もうと確定診断は下せません。それに、まだ病気ではない状態で処置をするわけですから、保険の適用はおそらく今後も困難と思われます。

 生殖器や乳房ならばまだしも、胃や大腸など普段の生活に大きく影響するような臓器の場合、切るのか、それとも温存するのかというのは、難しい選択です」(前出・西原医師)