大特集「遺伝するがん」あなたは発病前に切りますか 米国の女優アンジェリーナ・ジョリーは事前に乳房を切除しちゃったけど

週刊現代 プロフィール

 この遺伝子の変異そのものを治療する術は、今のところ存在しない。それならば、将来がんの患部になる場所を切り取ってしまえばいい—予防的切除の発想は、きわめてシンプルだ。だが、いくら将来がんになる確率が高いとはいえ、健康な乳房や卵巣を根こそぎ摘出してしまうのが、かなりの荒業なのは間違いない。

 世界では、ジョリーさんを「勇気ある決断を下した」と賞賛する声が多数派である。しかし、かつて乳がんの原因遺伝子特定プロジェクトにも携わった、ニューヨークにあるスローン・ケタリング記念がんセンターのケネス・オフィット医師は懸念を隠さない。

「確かに彼女の告白によって、遺伝性乳がんやその予防処置に注目が集まりました。しかし米国ではここ数年、遺伝子の変異がないにもかかわらず、乳がん予防のために乳房を切除してしまう女性が急増しているのです。意識を高めるのはいいですが、少し行き過ぎではないかと思います。

 検査結果を聞いてパニックになり、どうしても切除すると言って聞かない女性がいる一方で、再建手術をすれば手術前より乳房の形がよくなると期待する人さえ出ているのです」

 わが国ではまだ、米国のような予防的切除は実施されていない。だが、国内のがん医療を牽引するがん研究会と聖路加国際病院が、まさに今、こうした乳がんの予防的切除・再建の臨床研究を検討しているという。

「たとえBRCAに変異が見つかっても、20年後、本当にがんになるかならないかは誰にも分かりません。いつ発病するのか、と心理的なプレッシャーを感じながら生きてゆくくらいなら、取ってしまった方がいいという考え方もあるでしょう」(前出・西原医師)

 どうせがんになるのなら、切るべきか、切らざるべきか—これは医療の進歩がわれわれに突きつけた、新たな「究極の選択」だ。

どんながんにも効くとは限らない
「切って防ぐ」しかし犠牲も大きい

「今回話題になった乳がんや卵巣がんに限らず、大腸がんや肺がん、腎臓がんなど、あらゆる部位のがんに遺伝性のものが存在します。父方・母方どちらかの家系に集中して同じがんが多発していたり、若年性がん患者の場合は遺伝性の疑いが強い」(前出・吉田医師)

 がん患者のうち、遺伝性がんの患者が占める割合は、どの種類でもおおむね1割前後といわれる。次ページの表にも示したように、乳がんと卵巣がん以外にも、すでに原因遺伝子が特定されているがんは数多い。しかもその中には、治療として予防的切除が行われるものが複数存在する。ジョリーさんのケースが特殊というわけでは決してないのだ。

 先日、あるイギリス人男性が遺伝子検査を受けたところ、BRCAの変異が見つかった。そう、ジョリーさんと同じ、乳がん・卵巣がんの原因となる遺伝子である。