あいつだけには負けられない。ここだけは一歩も引けない。
そんな戦いがクルマ界にはある。1秒でも速く、1psでも高く、1kgでも軽く、0・1kmでもライバルより長く走りたい。
ほんの僅かな差ではあるのだが、そこにはメーカーのプライドと意地をかけた、血の滲むような技術開発の歴史が詰まっている。
2011年9月に発表されたダイハツのミライース。徹底した軽量化や燃焼効率を追求したエンジン、停車前アイドリングストップなどのエネルギーマネジメントを集約した「イーステクノロジー」により燃費を約40%向上させ、JC08モード燃費は驚異的な30km/ℓを達成、価格も安めに設定して一躍人気を集めた。
それに対抗したのがスズキ。わずか3カ月後の'11年12月にアルトエコを発売。燃費は30・2km/ℓ。ミライースとの差はわずか0・2km/ℓ! ガソリンタンク容量を抑えるといった奇策に賛否あったが、スズキの意地を感じた。
さらにスズキの攻勢は続く。'12年9月、主力であるワゴンRに、「エネチャージ」などの省燃費テクノロジーをつぎ込み、予定されていたモデルチェンジ時期を前倒しして市場投入した。ライバルであるムーヴの27・0km/ℓに対し、28・8km/ℓをマーク。これが奏功して、販売台数が一気に伸び上がり、ムーヴを上回った。
コレに対しダイハツは、'12年12月にムーヴをマイナーチェンジ。新たに「サーモマネジメント」技術を投入して29・0km/ℓを叩き出してきた。
軽自動車の燃費競争は、エスカレートするばかり。スズキは、アルトエコの燃費を向上させ、33・0km/ℓまで引き上げた。今年マイナーチェンジが予想されるミライースに対し、先手を打った格好だ。
スズキは、新型スペーシアで29・0km/ℓをマークするなど、現段階では一歩リードしているようだが、このままダイハツが黙っているとは思えない。
ところで、いま一番売れている軽自動車といえば、ホンダN BOXだが、燃費は昨年の12月のマイナーチェンジで向上したとはいえ、24・2km/ℓでムーヴやワゴンRとは差がある。軽自動車は、燃費のよさが魅力の一つとされているが、消費者の心は案外、パワー感やデザインといったほかの要素に向いているのかもしれない。