『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(佐々木実 著)
~はじめに より 抜粋

「改革」の原動力として、「知的起業家精神」が求められていると竹中は語っている。

世の中を動かしていくのは、アントレプレナーシップ(起業家精神)です。そして私たちにいま求められているのは、インテレクチュアル・アントレプレナーシップ、すなわち知的起業家精神です。それにはいろいろな局面がある。
 たとえば、東ヨーロッパが社会主義から解放されたときに何が起こったか。アメリカの国際経営コンサルタントと言われる人たちが大量に押しかけて、アメリカ的なビジネスをつくった。これはひとつの知的起業家精神ですよ。ソ連がロシアになったときにも、たとえばワシントンのアーバンインスティチュートという研究所がロシアに進出し、ロシアの都市計画をほとんど手がけた。あるいは、中国で会計基準をつくるときには、アメリカの国際公認会計士が大挙して手伝った。
 そして、いまの日本では、政策に関する知的起業家精神が改めて求められている。

 自ら解説しているように、小泉政権における竹中のポジションは、東欧の旧社会主義国にビジネスチャンスを求めて押しかけたアメリカの経営コンサルタントとどこか似ていた。抜け目ない知的起業家は「市場化」の伝道師でもある。

『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』
著者=佐々木実
⇒本を購入する(AMAZON)

 小泉政権の経済運営を今ふりかえると、興味深い事実が見えてくる。「構造改革」は経済成長を達成するために避けられない道であり、つかの間の「痛み」に耐えることで将来の富が約束される──そんな物語が当時まことしやかに語られていた。だが、実態はずいぶん違っていたのである。

 小泉政権時代の経済パフォーマンスを名目GDPでみると、最も数値が高かった政権末期でさえ一九九〇年代の金融危機前と同水準である。名目GDPの伸びの低迷は、アメリカやEUなどと比べることで、よりはっきりする。国際比較のグラフでみると、日本は横ばい状態を続けていたにすぎない。

 それでも経済運営で大きな成功を収めたかのように認識されているのは、戦後最長といわれる「いざなみ景気」のもと、企業の業績が好調だったからである。だが、それは「構造改革」の効果というより、日銀の金融緩和政策に負うところが大きかった。