資本主義に亀裂を入れる介護の力「介護の世界にこそ希望がある」!

「命より金」に抗う介護
三好 春樹

だから『実用介護事典』には「牧人権力」という項目がある。哲学者ミシェル・フーコーが、権力の最後の形だとした概念である。

「骨折を防ぐため」とベッドに抑制する病院、「健康のため」と酒やタバコなど本人の長年の生活習慣を禁止する施設などは、牧人権力の象徴ともいえるだろう。

かつて理想社会のように語られた「福祉社会」も、じつは「看守に厚く管理される社会」ではないのかといえなくもない。

介護に根拠があるとすれば人間学だろう。広くて深くて、なんでもありだ。理系でもあり文系でもある。だから本書には「老化」という項目もあれば「老い」もある。「上腕二頭筋」なんて解剖学用語もあれば、「ブリコラージュ」なんて思想用語もある。「のらくろ」も「冒険ダン吉」もイラスト入りで登場するし、「カジマヤー」なんて沖縄の長寿を祝う行事も載っている。ちなみにこの「カジマヤー」、広辞苑にも載っていない。

実用介護事典』は2005年11月に初刊。本格的事典は介護分野では初めてで現場で好評、版を重ね、2013年6月に「改訂新版」を発行することになった。

なんでもありの旧版だが、じつは弱みがあった。介護保険制度、特にケアマネの分野である。制度が始まって間もなく、当局の通達や現場の解釈もなかなか一定しなかったこともある。「改訂新版」ではそれらの分野に適材を得て大幅な増頁、さらに従来の項目にも時代の変化に伴って書き直しを行った。

介護関係者にはもちろんだが、いつ当事者になるかもしれない多くの人たちの手元に置かれることを願っている。いざというときにきっといくらかは適切な判断ができるだろう。

さらに願うなら、介護の世界に触れることで、新しい価値観を少しでも共有できんことを。

蛇足だが、「改訂新版」で私は「非実用介護事典」とでもいうべきコラムを新たに書き加えた。監修者自身がその事典を茶化すようなことをするのも、権威を無化しようという試みのひとつである。でもそれによって、介護という世界の重層性が現われてきたような気がしている。できればそれだけで一冊の本にならないかと考えている。

(読書人の雑誌「本」より)

 
◆ 内容紹介
本書は認知症ケアの必要性が叫ばれているいまこそ、介護家族、介護職、介護周辺の専門家に求められている本でしょう。私は認知症については「重度」とか「重い」という言葉を使いません。その代わり、「深い認知症」という言い方をしています。介護職は、認知症のお年寄りの言動を、理解不能と決めつけることなく、彼らが私たちに何かを訴えようとしているのではないかと考えなければなりません。こうした姿勢こそが、老人たちを落ち着かせ笑顔を生み出してきたのです。これを私は「介護の力」だと言ってきました。私たちに必要なのは「医学」ではなく「人間学」なのかもしれません。
 
三好春樹(みよし・はるき)
1950年生まれ。74年から特別養護老人ホームに生活指導員として勤務後、九州リハビリテーション大学校卒業。ふたたび特別養護老人ホームでPT(理学療法士)としてリハビリテーションの現場に復帰。現在、年間100回を超える講演と実技指導で絶大な支持を得ている。生活とリハビリ研究所代表。