「さすらいの野武士」が語る野球人生
そして金本、伊良部、愛犬、秀太事件のこと
下柳剛「まだ、投げてみたい」

フライデー プロフィール

 そう笑う下柳にとって、秀太以上に忘れられない選手がいる。阪神時代の1歳下の伊良部秀輝だ。悪童と呼ばれた男を最も可愛がったのは下柳だった。

「俺はアイツのことをずっと『ラブちゃん』って呼んでいました(笑)。マスコミの前では悪人然と振る舞っていましたが、あんなに優しい人間はいないですよ。スポーツ新聞に『悪童・伊良部』なんて書いてあるじゃないですか。すると、アイツは俺のところに来て『先輩、悪童ですよ、悪童~』って言いながら、『それで新聞が売れるんだったらいいですけどね』なんてニコニコ話してましたから。

 アイツはいつも大きなリュックを抱えてるんです。何が入ってるのかと思ったら、一緒に酒を呑みに行くと、『先輩、これ、サプリメント!』って。リュックに満載されていて、俺が食べてるものを見てて、『先輩、今日はこれが足りないんで』とサプリメントをくれる。ものすごく繊細な人間でした」

 そんな可愛い後輩は '11 年7月、米国ロサンゼルス近郊の自宅で自ら命を絶ってしまう。下柳がファームで先発する予定の前夜、知人から連絡が入った。

「『信じたくないけど、伊良部かもしれん』と報告を受けて、結局一睡もできなかった。今年、ドジャースのトライアウトを受ける前に、亡くなった場所の近くから手を合わせて『ラブちゃん、寂しかったら俺んとこついてきていいぞ』と伝えました」

 下柳の愛情は対人間にとどまらない。言わずと知れた無類の愛犬家。阪神のエースとして10勝を挙げた '07 年のオフ、2度目のFA権を行使しての国内、メジャー数球団との交渉は、下柳自身の交渉ではなく愛犬の交渉だと報じられ話題になった。

「本当ですよ。横浜は『キャンプに連れてきていいです』。阪神は『世話をする人をつけます』と言ってくれました。当時、犬は川崎に住んでいる人に預けていたので、横浜に行くつもりだったんです。弁護士さんとも話して横浜用のコメントも用意してもう発表する段階でした。そこで、犬を預けている人から『犬のことは心配するな。預かっといてやるから、注目を浴びるところで思いっきりやってこい』と言われてね。『じゃあ、阪神に残ります』となった。実は、横浜のマンションまで決めていたんです」

 移籍すべきか、残るべきか、そして、ユニフォームを脱ぐべきか。悩む下柳の相談相手はいつも、愛犬のラガーだった。

「どうしようか? やめちゃおっか。遊びに行く? のんびり暮らす?」

 そう相談し続け、下柳の現役生活を支えた15年来の相棒である。

 ただ、その答えは実はまだ出ていないのかもしれない。下柳は自身のブログで、〈一旦ユニフォームを脱ぎますが……〉と綴っている。

「実際問題、投げられるもんなら投げてみたい。とりあえず動けるようにはしておこうとジム通いの毎日です。万が一、草野球に顔を出してそこで投げられなかったらカッコ悪いでしょ。俺、あんまりカッコよくないのにカッコつけですから。男臭さみたいなんは出したいなと思ってます。ずっと昔気質の野球選手の匂いみたいなものを残したかったから。でも、それはカネと俺で終わったかもな」