岩手の天才少年書道家と大震災

短期連載 早熟の才能は、どうすれば順調に育つのか「神童」たちの「その後」
フライデー プロフィール
貞子さんが買い与えた電子辞書を離さず、飽きずに漢字を検索し続けた〔PHOTO〕高橋家提供

 貞子さんに言わせると、我が子の才能は「もうわけが分からない」そうだ。だが、そこにはあっけらかんとした信頼を感じた。思春期だからといって、ネットの使用を制限したりはしない。反抗期について尋ねると、卓也くんは「反抗は体力を消費するだけ」とそっけなかった。

 書道とパソコン。アナログとデジタルとまるで正反対のものに興味を持っていることに対し、卓也くんはこう分析する。

「すべての趣味が連係しています。パソコンで字が持つ意味を調べ、その知識を書道に使う。両者は混在しているんです」

 2歳から使っていた電子辞書に代わり、今はiPadが手放せない。

母が信じる息子の「生きる力」

 今年は中学3年生。受験生だ。機械のイロハを学ぶため、工業高校への進学を目指す。地元の公立中学校での成績は「中の上」。最近ようやく勉強へ気持ちは向き始めているが、基本的に成績へのこだわりはない。小学生のころから勉強は宿題をやるくらいで、それよりも興味のある書道や機械いじりに没頭してきた。そんな卓也くんに貞子さんは一度も「勉強しなさい」と言ったことはない。

「卓也はいろんなことに興味があるし、大人が読む本で知識を身につけています。震災のときも、卓也の知識があったから助かったことがたくさんありました。生きる力がついている。だから、やりたいことさえ見つかれば、きっと自分の力で成し遂げると思っています」

3歳の卓也くんはプラレールの線路を、自分の名前の形に並べた

 とはいえ、「天才少年書道家」であることも事実。書の依頼は後を絶たない。今年発売された、震災復興の願いを込めた曲が収録された八神純子のCDジャケットには、卓也くんの「翼」の字が躍る。字が持つ魅力はもちろんだが、卓也くん自身が被災したことも、依頼が集まる理由であろう。

 私は、あらためて卓也くんに「将来をどんなふうに考えているの?」と尋ねた。行く行くは東京でその才能を試したいのか、ということもあわせて聞いたのだが、卓也くんは、実に淡々と答えた。