カタカナ化する職業 ~水面下で流動化する現代のビジネス

 みなさんは世の中の多くの職業がカタカナ化していることに気づいているだろうか。かつて60年代に挿絵描きは「イラストレーター」となり、商業図案家は「グラフィックデザイナー」になった。このように職種の呼称が変わるとき、じつは水面下では世の中の仕組みが大きく変わっている。職域がカタカナでないと表現できない分野に進出・変化していると見るべきだろう。

 例えば、編集者という職が一般的だった出版業界に「作家エージェント」という新しいカタチのカタカナ職種が現れてきている。その一人に作家エージェント業という肩書きで事業をはじめた株式会社コルク社長・佐渡島庸平さんがいる。 この現象は、出版業界に何が起きているのか、という水面下の変化への想像力を働かせて、音楽業界と比較してみるとわかりやすい。

 音楽業界ではこれまで「レーベル」が力をもっていたが、いまは「エージェント」が強い。この理由は、デジタル化によってCDの販売が落ちこんだため、歌手をCDデビューさせてそれを大量に売るノウハウを持つ「レーベル」よりも、エイベックスのような、音楽配信やライブなどをうまく組み合わせてアーティストを売り出せる「エージェント」が力をもったからだ。

 「作家エージェント」という肩書きの登場は、出版界に音楽業界と同様の変化が起こることを予測させる。デジタル化により多様なメディア露出の可能性がある現在、一つのメディアの編集者よりも、版権の複数利用を手配してくれるエージェントのほうが強いのかもしれない。デジタル化は、作家エージェント業にとって強力な追い風となるだろう。

従来の産業区分を超えて流動化するビジネス

 今の時代、産業構造の変化にさらされていない業界は少ない。さらなる産業融合が起こる可能性も高い。例えば「自動車電機業界」のように、二つの業界を工業という視点で束ねて語る習慣があるが、今後、自動車が電気自動車に移行すれば、自動車も電気も同じ「電機業界」ということになる。

 もっと極端なケースはGoogleとAmazonとAppleだろう。もともとこの三社はそれぞれの専門分野に棲み分けて存在した。言うまでもなく「検索エンジン会社」「書籍の通販会社」「コンピュータの製造販売会社」と明確な区分があった。それが今や当初の区分を超え、競合する分野のほうが多いくらいだ。

 産業区分を超えて流動化する社会では、当然、人材も流動化する。だからこれからは、少なくとも二つぐらい強い専門性のあるカタカナ職種に身を置き、産業区分の崩壊に備える必要があるのではないか。

 例えば、デザイナーでありドクターでもある川崎和男さん。エンジニアでありプロダクトデザイナーでもある山中俊治さんなどが一つのロールモデルなのかもしれない。川崎さんが手がける人口心臓は、医学博士の知識やスキルだけではつくれない。医学業界を超えて、デザイナーとしての深い考察があるからこそ生み出せたものだろう。

 思えば複数の専門性を持つことは、ルネッサンス時代まで普通に行われてきた。レオナルド・ダ・ビンチは数十の専門分野の学問を習得していたという。それに習ったわけではないが、慶應義塾大学の私の講義でも、通常の学部として教えていることと合わせて、アートスクールで教えるようなことをやっていた。

 しかし、私の講義を受けたからといって皆がデザイナーになる必要はないと思っている。いずれカタカナになるであろう複数の職業の専門性を一人の人間が深く持つことによって、時代の変化に柔軟に対応するパラレルな思考が獲得できるはずだ。

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