一手も悪手を指さなかった三浦八段は、なぜ敗れたのか

「人間対コンピュータ将棋」頂上決戦の真実【後編】
山岸 浩史

私自身は、棋力はアマチュア初段くらいしかないので、ツツカナが指す手の意味も、いい手なのかどうかもわからないんです。船江さんとツツカナにしかわからない世界です。

でも、これだけの舞台で戦えたことで、あとでいろんな方からツツカナの手の意味を教えられたり、誉めていただいたりしました。それがとてもうれしく、ありがたかったです

竹内さんの話にも通じるが、開発者の多くは将棋が特別に強いわけではないため、自分のソフトが指す手を正しく評価することが難しい。プロ棋士に正面からぶつかってもらって、手塩にかけた「わが子」の長所や短所を炙り出し、本当の実力を教えてほしいというのは、彼らの多くに共通する願いなのだ。電王戦は彼らにとって、そのための貴重な場なのである。

それにプログラマーも人間だし、将棋ファンです。プロの先生に指していただけるのは、それだけでうれしいことなんです。私は1台のマシンだけでリソースをやり繰りすることにこだわってきましたが、その方法でプロ棋士といい内容の将棋が指せた喜びを、いま噛みしめています

「プロの権威が傷つく」というのは、杞憂なのか

第2局で佐藤慎一四段を破り、現役プロ棋士に勝ったソフト第1号となったponanzaの開発者、山本一成さん(27歳)は、事前提供をしなかった。

「事前に貸したら、プロに勝てるわけがないと思いました。やはり勝負なのですから、戦う以上は勝負にこだわろうと。それに、提供してほしいという話が棋士から来ているなら別ですが、話がないのにこちらから貸すのは、棋士に対して失礼ではないかと思いまして」

はっとする言葉だった。山本さんは開発者としては例外的に、将棋がとても強い。並みのアマチュア四、五段では歯が立たないだろう。それだけの実力を身に着けるまでに、誇り高き棋士たちの「文化」も自然と身に着いていったに違いない。

「でも、人間との勝負にこだわっているわけではありません。僕はただソフトを強くしたいんです。

将棋のプログラムを始めて、弱かったソフトがどんどん強くなるのを見て、こんな面白いことがあるのかと思いました。いまではponanzaと100回やっても1回も勝てません」

自分は開発者であると同時に「コンピュータ将棋のファン」だという山本さんのコンピュータ将棋観も、私には新鮮だった。

「たとえば習甦が阿部さんに癖を見抜かれましたが、あのようなコンピュータらしい負け方を見るのも好きなんです。あれでプロに失望したファンもいるようですが、少し考え方が硬いかなと思います。

僕はコンピュータが斬新な指し方をするところも、バカなところも好きなんです。人間にはないコンピュータらしさを面白がれば、将棋の楽しみ方の幅が広がると思いますよ」

関連記事

ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/