現代の投資と企業経営に通じるもの【前編】
谷家衛「小さな銃弾をたくさん撃ってから、大砲を発射しよう」

 グラフにすると、80年代前半の月次リターンは、従来の投資理論が教える「正規分布」曲線に近かったのですが、2000年代後半以降は、曲線の裾野が広がって、特に下方リスクが拡大しています。投資を目的とするマネーの量が、マーケットより大きくなりがちな現在、「金融が原因となるイベントリスクは、時代と共に増加している」と考えておいたほうが無難です。

巨額の資金が瞬時に投資され、瞬時に引き上げられる

 では、なぜ、金融に端を発するイベントリスクが増えたのでしょうか。それは、投資を行う人が増え、投資に使われるお金も増えたからです。

 中でも、デリバティブ(金融派生商品)が増え、少額の元手で大きな取引ができるレバレッジが普及したことにより、実質的な投資額は、見た目の金額の何倍にも膨れ上がっています。この数字は、正確に量りようがありません。

 日本経済新聞2011年11月15日付の記事によると、ヘッジファンドや金融会社、証券化商品運用会社などの「シャドーバンキング」(銀行以外の金融業態の総称)が保有する世界総資産は、2002年の約27兆ドルから、5年後の07年には約60兆ドルと、約2.2倍に拡大しているそうです。

 08年には、リーマンショックの影響でいったん56兆ドルまで減少しましたが、10年には再び60兆ドルに達しました。これは、銀行の保有資産の約6割にもなる---と同記事は伝えています。シャドーバンキングが世界金融に及ぼす影響力は、今やきわめて大きいと言わなければなりません。

 さらに、時価評価が国際会計基準で行われるようになり、格付け機関によって、世界中どこでも同じ基準で格付けがなされるようにもなりました。その結果、多くの投資家の動きもまた、同じようになりました。

 加えて、インターネットやPCの普及により、情報伝達の速度が飛躍的に上がっています。「ここへ投資するのがいい」という情報が出ると、皆、急速にそこに集中し、「よくない」と気づくと、また急速に去っていく。

 実際、2007年頃を境に、特にイベント発生時、複数の市場間で、価格がきわめて似た動きを見せるようになっています。「国内株式と先進国株式」「国内株式と新興国株式」「国内株式と商品」「外国株式と商品」という風に、各市場間の四通りの比較をすると、特にイベント発生時に、互いの相関係数が急速に上昇している、つまり、どの市場の価格も同じようなグラフを描いて動いていることがわかります。

 投資資金のボーダーレス化を背景に、「イベント時にはリスク資産から資金がいっせいに引き上げられる」という動きが顕著になり、その結果、分散投資も、投資家層の同質性が高まっている現在の市場では、イベント時にはワークしづらくなっています。

 こうして、リターンの分布が正規分布から大きく乖離し、ファンダメンタルに従った価格形成が見られない時期が拡大して、従来の投資理論の前提が崩れていったのです。

〈後編に続く・構成/片瀬京子〉

谷家衛 (たにや・まもる)
あすかアセットマネジメント代表取締役。東京大学法学部を卒業後、1987年にソロモン・スミス・バーニー証券へ入社。東京拠点のアジアにおける自己勘定取引部門の共同統轄者として、対顧客デリバティブ取引および債券・金利商品自己勘定トレーディングのヘッドを務め、日本における金利商品の相対価値取引の第一人者として活躍した。1999年にチューダー・キャピタル・ジャパンにおいて運用担当ディレクターを務める。2002年にMBOを行い、あすかアセットマネジメントを設立。ライフネット生命保険や、スタジオヨギーなどを創業支援した実績も持つ。NPO、NGOとしては、日本初のインターナショナルボーディングスクール(ISAK)を着想し、発起人代表として学校開設へのプロジェクトを進めると同時に、ヒューマン・ライツ・ウォッチの東京委員会Vice Chair Personを務める。
編集部からのお知らせ!
ABJ mark

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標 (登録番号 第6091713号) です。 ABJマークについて、詳しくはこちらを御覧ください。https://aebs.or.jp/