小泉 普通の人には難しいでしょう。でも健康にはいいそうですね。
人間以外の動物の尿も不思議な力を持っています。自分の縄張りを主張するのにも尿でマーキングをしますし、また繁殖期になると雌は尿に性誘引フェロモンを混ぜて放尿し、その匂いに誘われて多くの雄が目の色を変えてやってきます。そこでいちばん強い雄を選ぶために決闘させて、雌は高みの見物です。相手が決まると「では子作りをいたしましょうか」といってお尻を突き出すのです。
シマジ 人間より動物のほうが尿を有効活用しているんですね。
小泉 さきほど男の子の小便を原料にした中国のとても珍しい精力剤を紹介しましたが、じつは小便ばかりではなく大便にも性誘引物質があるのです。まあ"空飛ぶ媚薬"とでも申しましょうか。
わたしの郷里は福島県の田舎ですが、小学生のころ春風が吹く田んぼの畦の蓮華草の上に寝っ転がっていましたら、風に乗って甘く切なくそして耽美ないい匂いが漂ってきたんです。それは肥料として田んぼにまかれた糞尿が乾いて放つ匂いであることを突き止めたわたしは、大学に入って発酵学の研究をはじめたときに、一体あの幻の匂いはどうして出来るのかを探ってみたんです。
シマジ 教授はやっぱりもの凄い好奇心の持ち主ですね。
小泉 するとわかりました。人間の大便にはインドールとかスカトールという芳香物質の前駆体<プレカーサー>があって、それが発酵微生物の作用を受けて、香しい匂いを放つことがわかったのです。
インドール誘導体は超高級香水には必ず入っています。その匂いには性ホルモンをくすぐるフェロモンがあります。お相撲さんの鬢付け油の甘い芳香についフラフラなびく女性も少なくないそうですから、匂いというのも異性に対しての"武器"になるのです。
セオ ではこのへんでネスプレッソ・ブレーク・タイムを入れましょうか。ついでにおトイレに行かれる方は行ってください。いままで面白い話が続きましたから、刺激を受けた方は遠慮せずに行ってください。
立木 小泉教授は口に入るものから出るものまで、すべて研究なさっているんですね。
小泉 休憩時間が終わったら、スッポンの面白い話をしましょうか。
シマジ ぜひぜひお願いします。
〈次回につづく〉
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