第32回 福富太郎(その二)
ホステスが消える―福富のキャバレーと大韓航空機爆破事件を結びつけた「女」

福田 和也

 北朝鮮の破壊活動のなかでも、大韓航空機爆破事件は、格別だ。一九八七年十一月二十九日、大韓航空八五八便はアブダビを飛び立ちラングーンから南、二二〇キロの海上で空中分解し、百十五人が死んだ。

 福富さんは一件について、こう語っている。

二年ほど前のある日、日本の官憲がいきなり私の経営する『ハリウッド』にやってきた。実は、金賢姫に日本語を教えていた女性が『池袋ハリウッド』のホステスだったというのでマスコミが大騒ぎし、テレビは二十四時間ぴったりくっついて店を取材していた。官憲の方は、表沙汰にするにはまだ証拠不十分というので、私の店の者に対しても非常に慎重な態度で臨んでいた。/私はその女性を見た覚えもないし、どんな素性の女かも知らなかった。聞いてみると、一九七八(昭和五十三)年ごろ『ちとせ』という名前で働いていたが、突然失踪し、李恩恵という名前で、北朝鮮で金賢姫に日本語を教えていたらしいという。/金賢姫の自白によると、その日本語の先生は『バッカみたい』という言葉をよく使っていた。そういえば今から十五年ほど前、『バッカみたい』とか『あっ、ホント』といった言葉がはやったことがある。女子大生などよりもむしろホステスがよく使っていたようで、李恩恵もそれを連発していたという。/李恩恵という人物を捜しだすために『ハリウッド』の池袋店に取材が殺到(中略)した」(『昭和キャバレー秘史』)

『週刊現代』2013年5月11・18日合併号より