第6章(1)はこちらをご覧ください。
前回述べたように、グループにおける東西NTTのポジションは、決して良いものではありません。現状は縮小均衡という言葉が当てはまります。では、東西NTTに将来はないのでしょうか。
ここで先ほど紹介した江部社長の「将来、(我が社の)生命線が固定ブロードバンドにあるのなら『光で勝負するしかない』とも考えました」という言葉が気になります。NTT法(電気通信事業法)で新規分野に参入できないNTT東西にとって、光ファイバー・ビジネスを拡大することは欠かせません。つまり、光ファイバー・サービスで成長戦略を描く必要があります。
しかし、NTTの光サービスは苦戦しています。なぜ契約数が伸びないのでしょうか。私は魅力的なサービスが不足していると感じています。確かに、現在でも高速で安いインターネット・サービスが提供されています。しかし、ネットサービスだけに利用するには、光ファイバーは高すぎる投資です。魅力的なサービスを増やさないと契約は伸びないでしょう。これでは巨額の投資をして設置したネットワークがダメになってしまいます。
しかし、NTT東西は魅力的なサービスを投入することができません。そこには「サービスとネットワークの分離」という制度的な障害があるからです。
米国のベライゾン・コミュニケーションズは、NTTを追って光ファイバー網の整備をしました。この光ファイバービジネス「ファイオス(FiOS)」は、2005年にサービスを開始しました。大きな特徴は、ネット接続だけでなく、放送サービスや電話サービスなども抱き合わせるビジネス・モデルを採用したことです。
そもそも、インターネット接続だけでは、一世帯あたり約10万円から20万円もかかるFTTHの設備投資を短期間に回収することは不可能です。そこでベライゾンは光ファイバーにネット接続サービスだけでなく、CATV放送や電話などを乗せました。こうして一本の光ファイバーで様々なサービスを提供することで短期に投資を回収するだけでなく、放送通信の融合サービスという技術革新にも挑戦しました。
また、グーグルは2012年10月から米国の中部カンサス・シティーでFTTHサービスを開始しています。これも1ギガビット秒の高速インターネット接続だけでなく、ビデオ放送(光CATVと呼ばれています)との抱き合わせサービスも展開しています。また、同社の音楽ダウンロードやビデオレンタルを楽しめるサービスも組み合わせました。
これに対抗してCATV業界でも抱き合わせサービスが活発となり、米国では約10年間にわたって「トリプル・プレー戦争」と呼ばれる放送通信融合サービス競争が起こりました。おかげで米国ではビデオ・オンディマンドを初めとして、様々なサービスが安く提供されるようになりました。ここに共通するのはFTTHにせよ、DSLにせよ、同軸ケーブルにせよ、ネットワーク設備を持つ事業者が直接サービスを構築していることです。