首相・安倍晋三のロシア・中東3カ国歴訪は連休中でニュースが少ない時期と重なったこともあって、その成果が大々的に報道された。連休に入る前、安倍が閣僚の靖国神社参拝に中国、韓国が反発したことに対し「どんな脅かしにも屈しない」と発言し、さらなる反発を招いたことは、外遊によって上書きされたかたちだ。
とはいえ、この発言に潜む危うさは記憶に残るだろう。ほかにも、政権の気が緩んでいると思われることが相次いでおり、気を引き締めなければ順風満帆の政権運営に狂いが生じる可能性もある。
問題発言は4月24日の参院予算委員会で飛び出した。質問者は民主党の徳永エリ。徳永は閣僚の靖国参拝に関連して「拉致被害者の家族の方々は、実は非常に、まあマスコミベースの話ですから、落胆をしているという声が聞こえてきています」と、拉致被害者と絡めて質問した。
これに対し、拉致問題担当相の古屋圭司が「いや、それは、それは全く、ちょっと聞き捨てならぬ話ですよ。是非それお名前を言ってください、どなたか」と激高。この後に安倍が答弁した。
安倍は、閣僚の靖国参拝に中国、韓国は以前はそれほど問題にしていなかったのに近年、抗議するようになったという変化を説明した上で、こう述べた。
「そういうことをしっかりと頭に入れながら対応していく必要があるんだろうと思うし、国のために尊い命を落とした英霊に対し、尊崇の念を表するのは当たり前のことであり、わが閣僚においてはどんな脅かしにも屈しない、その自由は確保していく。これは当然のことだろう、と思う」
安倍はおそらく、徳永の「拉致家族が落胆している」という言葉に反応したと思われる。しかし、質問は報道されず、答弁のみ、なかでも激しい言葉だけが報道されるのは、首相として覚悟しておかねばならないことである。
また、歴史認識の問題について、安倍が昨年9月に自民党総裁に選ばれた後、年末に首相に就任する約3カ月の間に、官房長官に就任した菅義偉や外務省などと意見交換を重ね「踏み込まない」ことを確認している。安倍の発言はこの確認を踏み外している。
発言に対して官邸内からも「徳永さんの挑発に乗ってしまった」「内閣支持率や経済指標が好調なので気の緩みが出たのではないか」と、いぶかる声が上がった。