週現スペシャル 大研究 遺伝するもの、しないもの【第1部】一覧表でまるわかり 遺伝する才能、しない才能、微妙なもの

週刊現代 プロフィール

 こう語るのは、東京大学大学院教授で、日本の筋肉研究の第一人者である石井直方氏だ。

 人の筋肉は、縮む速度は速いがすぐに疲労する「速筋」と、逆に持久力はあるが縮む速度の遅い「遅筋」の2種類からなる。このどちらを多く持っているかによって、短距離型か長距離型かが生まれながらにして決まるというのである。

「実は、日本人の約3割は特殊な遺伝子を持っているせいで、速筋の収縮に必要なタンパク質を作ることができません。しかし、この遺伝子を持っている人は白人だと15%、アフリカ系黒人ではわずか3%以下。オリンピックの短距離系選手には一人もいなかったという研究報告もあるのです」(石井氏)

 一般に、パワーや瞬発力が求められる野球では速筋型のアスリートが、持久力が求められるサッカーでは遅筋型のアスリートが強いと言われる。

 しかし、この種目の壁を越えて活躍する親子がいる。横浜DeNAベイスターズ一軍チーフコーチを務める、高木豊氏とその子どもたちだ。高木氏の3人の息子は、それぞれ清水エスパルス、オランダ・FCユトレヒト、東京ヴェルディ1969と、全員がプロサッカーチームで活躍している。

「スポーツはまず足、スピードが大事です。息子たちはみんな足が速かったし、早くからスポーツに興味を示したので、それも遺伝だったのかなと思います。

 妻も短距離の選手だったせいか、長男は特にかけっこが好きでした。三男は、野球をやらせても抜群なんですよ。ミスもしないし、あいつの方が、僕なんかよりも柔らかさがある。思わず『野球やるか』と言ったこともあります」(高木氏)

 野球選手の父と短距離選手の母をもつ高木3兄弟の筋肉は、おそらく速筋型だと考えられる。なぜ、野球や短距離走より持久力の求められるサッカーで活躍できるのか。石井氏が言う。

「いま『遅筋を速筋に変えることはできないが、速筋は訓練次第でほぼ完璧な遅筋に変えられる』ということがわかってきています。

 つまり、生まれつき遅筋の多い人がいくら頑張ってもスプリンターになることは難しいですが、速筋の多い人は、トレーニング次第では優秀なマラソン選手にもなれるのです」

 最新の研究が明らかにしつつあるこの事実は、一般人にとっては単なる向き不向きの問題でしかないかもしれないが、一流のアスリートにとっては人生の明暗を分けるものだといえよう。

 そもそも、人間の身体的な特徴の中で、遺伝するかどうか微妙なものはあっても、遺伝が全く関係ないというものはほとんど存在しないようだ。意外にも右利き・左利きやつむじの右巻き・左巻きは遺伝しないことがわかっているが、こうしたケースはまれで「これは遺伝ではない」と断言できるものは極めて少ない。