【第1章「毛沢東を敬愛する『新しい皇帝様』」他】はこちらをご覧ください。
もう少し人民解放軍について見ていこう。2012年11月15日に、軍トップの中国共産党中央軍事委員会主席となった習近平は、「人民解放軍の復権」を目指している。習近平は「太子党」の代表格であり、太子党の最大の権力基盤が人民解放軍だからだ。中でも特に力を入れているのが、海軍力の増強である。
現在の中華人民共和国は、中国共産党の軍隊である人民解放軍が、悪の日本軍と、その後の国民党軍を中国大陸から駆逐して建国したというのが、共産党政権が教える"正史"である。そして「銃口から政権は生まれる」「農村から都市を包囲する」などの語録を残した毛沢東は、地上戦での戦闘を意識して、専ら陸軍中心の軍組織を編成した。
1949年の建国後も、最重要の課題は、1万8000キロメートルの海岸線よりも、計2万2800キロメートルに及ぶ周囲14ヵ国との陸の国境警備だった。中国は古代から万里の長城を築き、兵力の大半を国境警備にあててきたが、その伝統を踏襲したのである。最盛期の1960年代には、世界最大の600万人以上の軍人を擁し、その大半は陸軍だった。
70年代末から改革開放政策を始めた鄧小平は、軍事中心から経済中心へと、国の舵を急転換させた。そして1980年に50万人、82年に50万人、85年に100万人と、計3度にわたる軍人の大幅削減を断行したのだった。その後、江沢民が97年に50万人、胡錦濤が2004年に20万人削減し、現行の230万人体制となった。その内訳は、陸軍150万人、海軍24万人、空軍42万人、その他14万人である。
人民解放軍の大きな転換期は、90年代の前半から半ばにかけて起こった。それは一言で言えば、陸軍中心の重厚長大な軍隊から、海軍中心の、より近代化された軍隊への転換だった。
これにはいくつかの要因がある。第一に、1991年の湾岸戦争でアメリカのハイテク戦争の威力を目の当たりにしたことだった。つまり現代戦争では、陸軍が地上戦に出るのは、いわば最後の仕上げであって、その前の砲撃、空爆、海上封鎖などで決着がついてしまうのである。