[裏方NAVI]
大木学(帝京大学ラグビー部アスレティック・トレーナー)<後編>「チームを救った“準備”」

スポーツコミュニケーションズ

指針となる日常の観察

 準備が重要なのは、何も選手に限ったことではない。それは大木自身にも求められることだった。
「重要な試合になればなるほど、選手にプレーを続行させるか否か、冷静な判断を迫られることがある。その時こそ、トレーナーの的確なアドバイスが必要だ。その時に備えて、しっかりと準備しておいてほしい」
 帝京大学ラグビー部のスタッフの一員となった初めての年、大木は岩出雅之監督からそう告げられた。その期待に応えようと、大木は試行錯誤を繰り返しながら、自分自身を磨いてきた。そのなかで日々の観察こそが、いざというときには重要だということを何度も味わってきた。

「ケガをした選手の様子や状態を見て、グラウンドに戻すにはどのくらいの時間や日数が必要かということを見極めるのですが、その時に大事なのは、いかに選手のことを把握しているかどうかなんです。同じようなケガの度合いでも、その時の選手の身体や気持ちの状態で、回復のスピードは変わってきます。毎日きちんとトレーニングやケアを行なっているか、練習に集中できているか、睡眠はとれているか……普段から選手の様子を細かく見ることが重要となるんです」

 普段の練習では、チームは複数のグループに分けられ、同時進行でトレーニングやラグビー練習が行われる。そのような状況で、大木はアンテナを広げて各グループや選手を観察している。例えば、先輩たちが技術指導を受けている間、グラウンドの外では、入部間もない1年生がランニングを課せられていた。大木はしばしば、その外周にも目を向けていた。さらに走り終わり、疲労困憊の様子でヒザに手をあてている選手たちに、大木はグラウンドに用意されているボトルを差し出し、水分補給を促していた。

「最もケガをしやすい時期のひとつは、まだ身体が出来上がっていない1年の前半です。季節的に徐々に気温が上がっていって、疲労も蓄積しやすくなる。だから毎日トレーニングの前後に体重を測り、減り幅が大きい選手には『しっかりと食べて休んで、明日また元気になってグラウンドに来いよ』というふうに声をかけるようにしています」

 こうした普段からの観察の積み重ねが、いざという時の大事な指針となる。これまで何度も苦い経験をしてきた大木には、それがよくわかっている。
「以前は自分の基準が曖昧で、ケガを負った選手が『大丈夫です』と言うので復帰させたら、結局再受傷して戻ってきた、というようなことが何度もありました。選手にもチームにも、申し訳なかったと思っています。成功例の方が少ないかもしれませんね。今はようやく経験値をいかすことができるようになったかな」
 その手応えは、確信へと変わりつつある。