『対中戦略 無益な戦争を回避するために』(近藤大介著)
~第1章より「仕掛けられた反日デモ」他抜粋~

 青年たちは、自らの行動に興奮するかのように、いよいよ目が血走ってきて、完全に自己陶酔の世界に浸っている。仕事もなく、こうしてストレスを発散させるしか生き甲斐を見出せないとは、何とも哀れである。だがこれが、格差社会が日増しに広がる中国社会の現状だ。

 私服姿の"指導員"たちを見ると、なぜか「毛主席万歳!」「解放軍万歳!」などと叫んでいるではないか。そして毛沢東の肖像写真をこれ見よがしに掲げている。

 デモ隊の青年たちは時折、300人ほどの武装警察が築いたバリケードを、這い上がって突破しようとした。するとその度に武装警察が、この時だけ本気になって引きずり降ろす。叫声と割れた卵などの生臭い臭いで、大使館前はたちまち修羅場と化したのだった。

公安当局は最後まで「見て見ぬふり」

 私はその後、亮馬橋路の大使館向かいで、深夜11時半まで見守った。

 公安と武装警察は、デモ隊を長時間、大使館前に立ち止まらせないようにしていたが、昼前に1度目の"衝突"が起こった。デモを終えても若者たちが帰らず、後ろから次々に新参組が加わったことで、大使館前は数千人規模のデモ隊で膨れ上がったのだ。

 周囲から増強された数百人の武装警察が、バリバリバリッという轟音を立てながら、バリケードを築いていく。そこへデモ隊が、雪崩を打って突破しようとして、武装警察と衝突した。

 間一髪でデモ隊の大使館内への侵入を免れたのは、北朝鮮のおかげだった。日本大使館は2012年2月にこの地へ引っ越してきたが、脱北者たちが侵入することを恐れて、約5メートルの高い外壁を築いていたのだ。

 大使館の南側には、"好運街"と呼ばれるレストラン街が広がっている。ところがデモ参加者たちは、誰一人としてランチを食べにレストランへ入ろうとしない。貧しい若者たちは、外食とも無縁になりつつあることが分かる。ちなみに公安職員たちには、日本大使館の東南側に位置する「二十一世紀飯店」裏手の駐車場で、豪華な弁当が支給されていた。

『対中戦略 無益な戦争を回避するために』
著者=近藤大介
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 こうして夕刻までに、1万人を超える青年たちが、デモ行進を行った。中国中央テレビは、2台の大型中継車を大使館前に配置し、ヘリコプターまで飛ばしていながら、デモの模様を一切放映しなかった。

 午後6時過ぎ、再びバリバリという轟音が響き渡り、武装警察隊がバリケードを築いた。すると、大使館の側面から、1台の黒塗りの車が現れた。

 「日本人だ!」

 いったんは引きかけていたデモ隊が、再び戻ってきて、たちまち日本大使館の公用車を取り囲んだ。車に体当たりする若者たちを、武装警察が引き剝がしにかかり、一触即発となった。