◆丹羽宇一郎「日中で意地の張り合いをしてもプラスにはならない」
『週刊東洋経済』2013年4月13日号
前中国大使(元伊藤忠商事会長)の丹羽宇一郎氏が、尖閣諸島のうち3島(魚釣島、南小島、北小島)の所有権を日本政府が購入したことに対して、中国政府がどのような認識を持っていたかについて、以下の証言を残している。
<――都による尖閣諸島購入計画の表明後、英国ファイナンシャルタイムズ紙のインタビューで日中関係の先行きに懸念を示し、外務省から注意を受けました。このとき、抗議の辞任をする選択肢もあったのではないですか。
(丹羽)私はあのインタビューで都の計画には賛成も反対もしていない。「本当にやったら、たいへんなことになる」という実感を伝えただけだ。
あそこで私が辞表を出していたら、かえって日中関係はおかしくなったのではないか。自分のことを考えるなら辞めたほうがよかったが、日中両国のためにベストな判断をしたと思っている。
――その後に都ではなく国が購入する、いわゆる「国有化」がなされたことで、中国側は極めて強硬な態度に・・・・・・(略)
◆矢板明夫 「習近平政権に勝利した安倍外交」 『新潮45』 2013年5月号
産経新聞中国総局(北京)特派員の矢板明夫氏は、中国の内在的論理に通暁した優れた専門家だ。3月の習近平中国国家主席の訪露について、筆者は分析メモNo.22(2013年3月27日号 Vol.010)で、この訪問は中国外交の敗北と評価した。矢板氏は、中国側からウオッチして、筆者と同一の結論に至っている。
<中国側が日本に対する態度を軟化させたのは、日本政府の冷静な処理だけが理由ではない。安倍政権が展開した「中国包囲網」外交が功を奏したことも大きな要因だと指摘される。
安倍首相が今年1月、南沙(スプラトリー)諸島などの領有権問題で中国と対立する東南アジア諸国を歴訪し、関係強化に成功した。その後、訪米して経済面での連携を前進させ、民主党政権下で弱体化した日米安保体制を修復した。
こうした展開に対し、孤立感を強めた中国は焦りを感じた。習近平主席は3月、最初の外遊先にロシアを選び、中ロ接近を通じて日米安保に対抗しようとしたが、このロシア訪問は、当初期待していた成果をほとんど得られなかった。
(略)
最近、新潟県立大学の袴田茂樹教授が、執拗に対中国牽制で日露の提携は不可能であるとの主張を展開している。
<ロシアが中国への脅威を感じているから、中国より日本を重視すると考えるべきでない。ロシアにとり、アジアではやはり中国が最重要国なのだ。実は、中国への不信感、脅威感があるからこそ、ロシアは中国との「戦略的パートナーシップ」や「友好関係」を強調せざるを得ないのである。日本は中国の脅威に対して、安易に「ロシアカード」を使える状況ではない。したがって、ロシアが中国に対抗するために、北方領土問題で日本に譲歩するという認識は間違いだ。>(『公研』2013年4月号)
矢板論文を読むと、袴田氏の主張が根拠薄弱な印象論であることが浮き彫りになる。
◆村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 文藝春秋 2013年
優れた小説は、多声的な構成になっている。それだから、村上春樹氏の小説は複数の読み方が可能になる。功利主義的な観点からも、この小説には、役に立つ内容が多数含まれている。主人公の多崎つくるが、高校時代の友人で、現在は名古屋で人材育成会社の代表取締役になり、成功している赤松慶との以下のやりとりだ。・・・・・。(以下略)