長谷川幸洋『経済学から考える際の「4つの軸」』

経済学における「考える基準」とは何か

 経済の動きを伝えるのが経済ニュース、あるいは経済ジャーナリズムだとして、はたして記者たちには「記事を書く基準」のようなものはあるのだろうか。今回から、その問題を考えてみたい。

 私がなぜ、そんな問題に興味をもつかと言えば、前回(vol.023 2013年4月10日)、書いたが、私自身が経済記者になったときに「何が経済ニュースになるのか」がよく分からなかったからだ。経済記者を30年以上やってきて、いまも分かったような気がしない。だから、原点に戻って考えてみたいのである。

 とっかかりとして、回り道のようだが経済ジャーナリズムではなく「経済学」という学問の世界では「考える基準」はあるのか、早稲田大学政治経済学術院の若田部昌澄に聞いてみた。若田部が言う。

私はインセンティブとトレードオフ、それにトレード、マネーという4つの軸で考えています。インセンティブというのは自分が『やりたい』と思うこと。でも、実際には選択肢に限りがある。それを経済学では制約条件と言ったりしますが、そこから『トレードオフ』という2番目の軸が出てきます」(若田部の議論については『もうダマされないための経済学講義』(光文社新書)、『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書)を参照)

 トレードオフとは、たとえば予算に限り(制約条件)がある中で、冷蔵庫を買い換えれば、エアコンの買い替えはあきらめざるをえない、といったことだ。つまり、どれか1つを選べば、他の1つを捨てる(オフ)。「あちらを立てればこちらが立たず」と理解してもいい。

それからトレード。つまり取引です。互いが自発的に物やサービスを交換するのは、双方に利益があるからですね。この原理で考えれば『環太平洋連携協定(TPP)に入ったら抜けられない』とか『米国がいいようにやっている』なんて話は初めからおかしい。自分に利益がないなら、取引をやめればいい。日本は自発的に自分が得か損かだけを考えて交渉すればいいだけです

 もうここで、目下の経済ニュースの焦点であるTPPの話になった。TPPは交渉に参加したところで、別に日本が米国に強制されて絶対に締結しなければならない協定ではない。TPPは貿易をするうえでの枠組みを決める交渉だ。関税の扱いも枠組みの一部になる。だから大きくみれば、TPPも自発的取引の一部である。・・・・・・(以下略)

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