海部美知「ビッグデータ文明論」最終回 第三次産業革命は終わったのか?

メルマガ「現代新書カフェ」より
海部 美知 プロフィール

 第一次産業革命によって急激に生産性が増大し、人々はそこで生まれた自由時間と「知力の余剰」をどう使っていいかわからなくなり、その不安を忘れるために、ジンを飲んで酔っ払うことが社会現象となりました。それが一世代つづいた後、ようやくこの「知力の余剰」を結集して「公共図書館」などが成立したという話です。

 さて、話は飛んで20世紀、第二次世界大戦後の社会変化で、急激に増大した生産性と自由時間を持て余した人々は、「ジン」の代わりに「テレビ」を消費して時間をつぶしました。それが一世代つづき、最近になって、この知力の余剰を組織化して役に立てることが始まりました。前著に挙げられている例はウィキペディアですが、今ならツイッターやフェイスブックをビッグデータ化したものがその典型になるのでしょう。

 その意味で、ロバート・ゴードン氏が件の論文で言うように、「第三次産業革命はもう終わってしまった」とは、私には思えません。まだ、ようやく第三次知的プラットフォーム建設にとりかかったところ、なのではないかと思っています。第二次ほどの劇的な影響はもしかしたらないかもしれませんが、それでも徐々に生活が良くなり、未来に希望が持てるならば、それでいいと思います。

日本のビッグデータ力

 先進国に偏在する貴重な資源「データ」を使った次世代産業において、今のところ、アメリカが圧倒的に優位にあります。ヨーロッパでは、まだグーグルやアマゾンほどの世界的に影響力の大きい企業はありませんが、もともとオープンソース・ソフトウェアが盛んな文化であるために、個人や小さい組織、アカデミック分野などに、開発者や研究者はたくさんいます。ロンドンの金融を中心に伝統的なビッグデータのユーザーも多く、こうしたユーザーをサポートするベンダーも多数あります。

 それに比べ、日本はやや出遅れている感があります。2012年春に出席したビッグデータ会議では、前年に比べて急に日本人参加者が増えて驚きましたが、まだ様子見といった感が強く、「ビッグデータのコミュニティ」に積極的に参加している企業や個人は、いることはいるのですが、まだ少数です。日本でビッグデータが「バズワード化」しているといっても、活躍が目立つのはNTTデータや野村総研などのサービスベンダーが多く、ビッグデータの技術そのものの開発に参加したり、「中身」のサービスを提供したりする企業はまだあまり姿が見えません。

 このため、「産業の競争力」という意味でも、また「今の問題を解決して、皆もっと幸せになろう」という意味でも、日本の企業や開発者は、もっと頑張らないと、ますます競争から脱落してしまうのではと危惧しています。

 グーグルやアマゾンのマネをしてもなかなか敵わないでしょうが、まずは自社のなかでのデータ活用、取り組むべき問題の設定などから、自分なりの戦略を考えていくとよいでしょう。

 また、ウデに自信のある開発者ならば、個人でコミュニティに参加することはすぐできます。 ビッグデータの世界は、世界の科学者コミュニティやオープンソース・ソフトウェアの伝統を色濃く継承しており、「世界の叡智を集めて問題の答えを見つける」ことが好きな世界です。志があって英語さえある程度できれば、世界のどこにいても、いろいろな形でコミュニティに貢献することができます。