特別対談 畑村洋太郎×加藤陽子
「福島原発事故から何を学ぶか」

加藤: 一つのヒントになるのは、伝統の思い出しですね。昔は海抜ゼロメートル地帯に住んでいれば水が来るのは当たり前で、たいていの家は小舟を持っている。だから、水が出たら、畳をあげて、舟の準備をして逃げる。体が自然に動いたんですね。そういう伝統的な知識は大きいと思います。

畑村: それはものすごく大事ですね。除染について、僕は汚染物質の「灰塚」を作ってそれぞれの場所に埋めるしかないと思っています。灰塚というのは、僕らの先祖が火山灰を処理した方法です。日本は火山国ですから、歴史的に火山灰で田畑が耕作できなくなることがしばしばあった。そんな時、農民たちはその場その場に灰塚を作って火山灰を集め、田畑を復旧したんですね。

加藤: 本でもお書きになっていますが、汚染物質を大規模に集めて別の場所に保管しようという方針には隘路(あいろ)がある。どこが受け入れるかという問題が大きくのしかかる。解決の糸口さえ見えなくなりますね。

畑村: そう。ただ、その場に埋めるというと、放射性物質が水に溶けて流れ出ないかと不安になりますよね。化学物質の毒性について勉強した知識で考えてしまうから。ところが、セシウムは一度土の粒子と結びつくと溶け出さないんです。だから、汚染物質をかき集めて、その場処理で深い穴に埋めてしまうのが、現実的で一番いい方法だと思います。

加藤: 日本は自然災害の多い国ですから、歴史の中にヒントが眠っているわけですね。

畑村: 歴史に学ぶというと、たいてい抽象的な教訓になってしまうけど、そうじゃなくて、過去にあった実践的な知見を、今にどう生かすかを考えるんです。

 もっと大きな話をすると、汚染されたエリアの木をすべて伐ることはできないだろうか。そんなことはできっこないと思うでしょ? でも日本の歴史の中にはそれをやった人がいるんですよ。

加藤: 誰ですか?

畑村: 秀吉です。朝鮮出兵の時の鉄の生産量を見るとね、木炭の生産がものすごく多くないとできないとわかる。じゃあ、短期間のうちにどこからどうやって木炭を調達したか。中国地方の木を伐りまくって、すべて禿げ山にしたんです。その面積を全部足したら、福島の倍ぐらいになると思う。中国地方はそのせいで最近まで山崩れに苦しめられたんだけど、でも、植林を工夫することで今は回復している。

 だから、福島の木をすべて伐ることは非現実的なことじゃないんですよ。秀吉の頭の中をそういう目で分解してみたら、きっといろんなことがわかるはずです。

加藤: おもしろいですね。こういう議論がどこにも見あたらないのが、もしかしたら現在の一番の問題なのかもしれません。畑村先生が百人ぐらいいたら、日本も元気になれるような気がします(笑)。

(了)

 
◆ 内容紹介
被害を拡大させた政府・東電・自治体の判断の誤りとは?メディアの誤解とは何か?いまなお続く避難・除染の本当の悲劇とは?

畑村委員長はじめ、政府事故調の中心メンバーだった3人の著者が、膨大な調査報告書をベースに、報告書に書けなかった独自の視点も入れ、事故の核心に迫る!!原発再稼働、進まない除染の問題にも一石を投じる決定版!