特別対談 畑村洋太郎×加藤陽子
「福島原発事故から何を学ぶか」

畑村: 配電盤の重要性を、皮肉にもネズミが教えてくれたわけです。それは全体を俯瞰してみれば、実は簡単にわかるんですよ。自分が「悪意の鬼」になって、一ヵ所を攻撃したら全部がダメになるような急所はないかと探せば、誰でもすぐに気がつくはずです。

 もちろん、全電源喪失が原因だというのは、マクロに見れば正しいんですよ。しかし、「じゃあ、外からの電気を確保すればいい」とそこだけを教訓にするのは間違いです。外部電源があっても、それを必要な場所に「配電」できなければ意味がない。配電盤が一ヵ所にかたまっていたら、また同じことが起こります。

加藤: もう一つ、イメージとのギャップということで言うと、多くの人が、水素爆発によって放射性物質がまき散らされたと思っています。でも、爆発する前からまわりに漏れていたわけですね?

畑村: はい。漏れていれば、風が吹けばそれに乗っていくだけなので、爆発があろうがなかろうが関係ない。本当に考えなければいけないのは、爆発の手前にどうして漏れたのかということですね。物事を逆算してたどっていかなければいけないんです。

 それから、爆発の強烈な印象とレベル7の事故という数字が一人歩きして、チェルノブイリと同じことが起きたと思っている人もいる。チェルノブイリでは爆発で中身の燃料ごと吹っ飛んだ。福島では中身はそこに留まっている。ただ、圧力容器内の圧力と温度が上昇したので、放射性物質が水素と一緒にあちこちから漏れ出ただけなんです。中にある放射性物質が爆発で吹っ飛んだわけではない。そのことを理解せずに騒いでいるのは、どうかしているんですよ。

加藤: 頭ではわかっていても、なかなか。

畑村: 目で見た現象のうち、自分が飛びつきたくなるものだけを結びつけて勝手にイメージをつくっている。もう二年も経つんだから、これを放っておいてはいけない。起こったことのメカニズムをきちんと本筋でとらえて、理解しなければならないんです。

「形だけの運用」でよしとする社会

加藤: 原発事故の際、最も重要な対策拠点とされていたはずのオフサイトセンターが、福島ではまったく機能しませんでした。そのせいで政府・地元自治体・東電がバラバラに動かざるをえなくなり、初期対応の大混乱を招いてしまいました。

 オフサイトセンターは現場から約五キロの大熊町に設置されていたのに、なぜ使うことができなかったのか。その理由は、冗談みたいな話ですが、建物に放射性物質を遮断する空気浄化フィルターが備わっていなかったから。原子力災害を想定した施設なのに、放射線量の上昇を考慮したつくりになっていなかった。しかも、保安院には二〇〇九年の時点で、総務省から放射線量を低減する換気設備を設置するよう勧告が来ていたのに、放置していたわけですね。