パソコンのフリーズが「治らない」理由 『不完全性定理とはなにか』

ゲーデルとチューリングの考えたこと
竹内 薫 プロフィール

 なんだ、そうだったのか! 自らの試みの無益さに愕然とした心優しきプログラマーさんは、本を飛ばし読みして、どうやら、無限ループの問題を追究したのがアラン・チューリングという数学者であり、彼こそが現代のパソコンの元祖であることを知る。

 さらには、パソコンでの「計算」というより、数学の「証明」という視点から、同じ問題を追究した先駆者がいたことを知る。彼の名はクルト・ゲーデル。ふーん、あのアインシュタインの同僚だったのか。

 本を買うかどうか迷って、冒頭の「プロローグ『心優しきプログラマーさんの悩み』」を読み始めた心優しきプログラマーさんは、そこに自分のエピソードが書かれていることを知り、なんだか頭がくらくらしてきた。

 いったい、なにがどうなっているのだ? まるで得体の知れない世界に迷い込んだような気分だ。私の名前はアリスだったかしら?

 すると突然、背後からポンと肩を叩かれた。振り向くと、そこには無精髭を生やした中年のおじさんが立っていた。

「今のあなたの状況こそが、チューリングやゲーデルの方法の根本、すなわち『自己言及』っていう奴ですよ」

「はぁ? あなた誰ですか」

「や、失敬。通りがかりのしがないサイエンス作家です」

「ふーん、前にどこかでお会いしましたっけ?」

「答えはイエスあんどノー」

「はぁ? なんか矛盾してませんか」

「ほぉ、では私が矛盾してることを証明できますかな?」

「だって、イエスあんどノーなんて言ってる時点でおかしいでしょうが!」

「たしかに……でも自分じゃわからないもんなんです。あなただって、ご自分が整合的だって証明できますか? あなたは決して矛盾したことを言わない人なんですか」

 おじさんの「禅問答」に心優しきプログラマーさんは吹き出しそうになってしまった。