週現スペシャル 第2部 第3部
「天才」と呼ばれた人が、本物の「天才」に出会ったとき

週刊現代 プロフィール

 ムッライナタンに出会って、私はアメリカで一流の学者になることは不可能だと自覚しました。自分の道を考え直しましたよ」

 プロ棋士の先崎学八段(42歳)も、本物の天才に出会って、自身を磨いてきた。先崎は、羽生善治、森内俊之、佐藤康光という雲の上の天才棋士たちが揃う、「羽生世代」の一人。先崎は言う。

「奨励会にいた頃から違う。見る人が見れば一瞬でわかるんですよ。羽生さん、森内さん、佐藤さんは、彼らの盤の周囲だけ光って見えたくらいです。私は彼らにどうにか食らいついてきたおかげで、生きてこられたようなもの」

 きら星のごとく輝く同世代のなかで揉まれてきた先崎だが、本当に勝てないと思った棋士は他にいる。齢73にして現役を続ける加藤一二三九段だ。

「加藤先生は第一感の塊。第一感とは、初めにひらめく手のことを言うんですが、実はこれが最良手ということがすごく多い。普通の棋士は、まず第一感があって、それが本当に良手かどうか検討していって、手を決めるわけです。

 でも加藤先生は、第一感でひらめく手が無数にある。だから迷ってしまう。加藤先生は長考癖で有名ですが、それは様々な手が見えすぎるからでしょう。

 加藤先生と対局の検討をしたことがあるんですが、あらゆる局面でノータイムで無数の手をポンポン打ってブツブツ言っているので驚きました。手が勝手に動くみたいでしたよ」

 加藤一二三は'54年に14歳7ヵ月で史上最年少でプロ棋士となった。翌年から4年連続で昇級、18歳でA級棋士となった天才棋士だ。先崎が続ける。

「考え方そのものが他の棋士と違う。ある時、『棋士は理系か文系か』という話題になったとき、私を含めほとんどの棋士が理系だと言っているなか、加藤先生は『将棋は文系のもの。理系のものではありません』と断言されたんです。たしかに加藤先生の将棋は、理詰めじゃない。

 その象徴が、序盤の大長考癖です。展開も読めない5手目くらいで考えこんで、1時間以上打たないんです。これはまったく時間の無駄で、終盤に時間を残しておいたほうが絶対に有利なわけです。本人もそれはわかっている。それでも加藤先生は長考してしまう。

 私は、あれは祈っているんだと思うんです。加藤先生はクリスチャンですが、そういった宗教的なことは関係なく、ただ純粋に将棋盤を前にして祈っている。加藤先生の将棋は祈る将棋なんです」

超人的な集中力の持ち主

 天才は凡人を超越したところにその凄みがある。第13回『アメリカ横断ウルトラクイズ』覇者で、その圧倒的な強さから司会の福留功男をして「史上最強」と言わしめたクイズ王、長戸勇人(47歳)が出会った天才もそうだった。

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