◆伊藤誠 『「資本論」を読む』 講談社学術文庫 2006年
アベノミクスをめぐる経済学者、経済評論家などの見解は、神学論争を彷彿させる。あらかじめ、アベノミクスを絶賛するか、非難するか、結論が決まっていて(多くの論者が無意識のうちに立場を決めているのであろう)、それにあわせて、主流派経済学の論議を当てはめている。アベノミクスはもとより、通貨、マネー、期待などの基本的な術語についても、論者によって意味、内容が異なっており、論理学で言うところの同一律(A=A)違反が頻発している。この種の神学論争を、信仰を共有しない者は、一定の距離をとって観察することが重要になる。
主流派経済学(近代経済学)は、自らのイデオロギー性について無自覚だ。これに対して、宇野経済学の系譜に連なるマルクス経済学は、イデオロギーを括弧の中に入れて、論理整合性を重視した経済理論を展開しようと努力している。
伊藤誠氏は、『資本論』のマネタリーな側面に注目し、・・・・・・(以下略)
◆新多昭二 『陸軍登戸研究所の青春』 講談社文庫 2004年
人間の能力と適性には、差異がある。また、その能力と適性が開花する時期も人によって異なる。戦時下において、国家はなりふり構わず国民の能力を搾り取ろうとする。太平洋戦争中、理科系の資質がある中学生を大学に入学させ、大学の専門課程を半年程度で終える制度があった。本書の著者・新多昭次氏もその1人で、1944年11月に京都帝国大学工学部・戦時科学研究養成機関に入学し、翌45年3月には卒業し、4月から陸軍の秘密研究所(登戸研究所)で勤務する。この研究所は、陸軍中野学校で使用する秘密機材(殺人用万年筆)の開発にも従事した。
戦時中の記録も抜群に面白いが、もっとも印象に残ったのは、登戸研究所の同僚で、戦後、GHQ(連合軍総司令部)に勤務したA君が伝えてきた<GHQが日本の教育制度を根本から変えることで、日本人のレベルダウンを計画している>(168頁)という情報が興味深い。
具体的には以下の内容だ。
<帰京後ほどなくして、再びA君から知らせがあった。
GHQの意向を受けて、日本の教育制度を根本から変えることが本決まりになったのだそうだ。「六・三・三・四制」といって、アメリカ本国に合わせて小学校を六年、中学と高校をそれぞれ三年、大学を四年とし、「大学」という名称を従来の高等学校や専門学校に与える。とどのつまりは教育内容のレベルを総合的に下げよう、ということらしい。
そして、従来教育界で高い地位についていた実力者や権威者は公職を追放する。こうすれば、・・・・・・(以下略)
◆「アベノミクスが浮き彫りにする『近代経済学の限界』」 榊原英資/水野和夫 『新潮45』2013年4月号
アベノミクスに対して、榊原英資氏、水野和夫氏が、率直なコメントを加えている。ポイントは、アベノミクスのモデルが閉鎖的な国民経済によって構築されていることと、新古典派(新自由主義と親和的)の「小さな政府」とケインズ的な「大きな政府」を同時に指向するという、奇妙な混交(ミックス)が起きているという点だ。
<榊原 先ずアベノミクスへの僕の評価で先鞭をつけましょう。
必ずしも全面的に否定はしていません。ここ数年マイナス成長が続いていたし、財政、金融の面から短期的に景気刺激をすること自体は別に悪いとは思いません。老朽化したインフラの整備などは行う必要がある。
ただし、デフレ脱却は極めて難しいでしょうね。・・・・・・(以下略)