大宅賞受賞『カウントダウン・メルトダウン』著者船橋洋一に藤野英人が聞く【前編】 「菅首相が極秘につくらせた『最悪シナリオ』を入手したとき、この本の取材は始まった」

藤野: お話を伺っていると、誰かに話を聞けば全体がわかるわけではないということがよくわかります。

船橋: それが、取材を通して得られた最大の発見でした。誰も全体を把握していないんです。すべてモザイク。

藤野: 今回の危機対応は、官邸主導とも言われましたが・・・。

船橋: 菅さんと官邸の主導、"カンカン主導"ですよ。

藤野: その菅さんについてですが、船橋さんは功罪共に記していますね。

船橋: そうです。まず、罪から行きましょう。

 あの人は、何にでも首を突っ込んで、何か一言言いたい人なんです。東工大出身で理系ですし、原子力は専門ではないにしても、彼に言わせると"土地勘のある"テーマということで、政治家の中では一番原子力に詳しいという自負があるんです。

「どうするか」よりも「誰の責任か」にこだわった首相

藤野: 菅さんは、3月12日に福島第一原発を視察しています。

船橋: ベントに手間取ったことにイラついたからですね。手間取ったのには、電源がないとか、周辺住民の避難が確認できないとか、様々な理由があったのですが、菅さんはこれにイライラして「俺が行く」と言い出した。

 官邸では「なんであなたが」という雰囲気になります。視察が必要なら、経産大臣か内閣危機管理官が行けばいいのですから。しかし彼は、そこで張り合ってしまうんです。

 それより困るのが、問題が起きたときに「なぜなのか」「誰の責任なのか」を追究しようとすることです。

藤野: それはその場でやるべきことではないですね。

船橋: ですから、細野豪志さんや寺田学さん(当時の総理補佐官)などは「総理、いま大切なのは、起きていることをどうするかです」と菅さんに言っています。

 何か大変な危機に見舞われた時、「誰の責任か」から発想する人は危機管理に一番向かないタイプです。