大宅賞受賞『カウントダウン・メルトダウン』著者船橋洋一に藤野英人が聞く【前編】 「菅首相が極秘につくらせた『最悪シナリオ』を入手したとき、この本の取材は始まった」

藤野: まず、"最悪のシナリオ"の存在自体が、驚きですね。

船橋: その通りです。あのさなかに作っていたことに驚き、また、その内容に驚きます。首都圏に暮らす約3500万人を避難させるというものですから。

米軍横須賀基地もパニックになっていた

藤野: 取材はどうやって進めたのですか。

船橋: 最初に、シナリオを作成した近藤駿介原子力委員長にあらためて話を聞きました。4時間くらいかけたでしょうか。その後、その作業に極秘に関わった方々、お一人お一人に話を伺いました。

 いろいろなことがわかってきたのですが、そのうちの一つに、アメリカも、"最悪のシナリオ"を用意していたということがあります。これは日本とはまったく独立して作られていた物です。

 では当時、アメリカは何を考え、どうしていたのか。どうやら横須賀の米海軍基地が大変だったらしい、という話を4月頃に聞きました。そこで横須賀に行って、空母ジョージ・ワシントンの当時の様子などを取材しました。

 3月15日には、米軍横須賀基地は大パニックになっていたことがわかりました。敷地内で放射能が検出されて、警報が鳴り響いていたというのです。それまで、それは報道されていなかったことです。

 こういった取材を進める中で、戦後最悪の危機に直面したときに作られた"最悪のシナリオ"と日米同盟関係を軸にまとめようと決めたのです。

藤野: 日米同盟の話は、主に下巻に書かれていますね。上巻も興味深いのですが、私は下巻こそがこの本の神髄だと思っています。

船橋: でも、上巻の方が売れ行きがいいみたいです。読む方は、上巻だけで力尽きてしまうのでしょうか。

藤野: まずは上巻を買って、読んでいる最中の方も多いのだと思います。

 それにしても、たくさんの方に取材をされていますよね。おそらく、同じ事象であっても、人によって見え方や解釈が異なることも、多々あると思います。その食い違う証言を、どうやってまとめ上げていったのでしょうか。

船橋: 役に立ったのは、当事者が記録したメモです。しかし、危機に遭遇したとき、メモをとる人はあまりいません。まずは、メモをとっていた人を探すことから始めました。

 秘書官たちはわりとメモをとっているので、これは大変役に立ちました。それから、政治家では海江田万里さん(当時の経済産業大臣)と福山哲郎さん(当時の内閣官房副長官)も、殴り書きのようなメモをとっています。お二人ともそれを基に証言集を出版していらっしゃいます。