第3部 アタマはいいけど腕はイマイチなぜ東大医学部出身の名医はいないのか
「理Ⅲの人たちは心から尊敬するし、友達もいるけど、自分が患者としてあいつらに命を預けたいか、と問われたら絶対にノーですね」(理学部4年)
日本で最も優秀な頭脳を一手に集めている東大医学部だが、「ゴッドハンド」と称される名医の学歴に「東京大学医学部」という文字を見ることはほとんどない。
その理由のひとつに、そもそも理Ⅲの合格者は医者になりたくて理Ⅲに入ったわけではない、ということが挙げられる。前出の東大医学部OBの作家・石井大地氏は語る。
「自分を含め、ほとんどの理Ⅲ生は、勉強ができるゆえの腕試し的な意味合いで理Ⅲを受験していて、どうしても医者になりたかったわけではありません。勉強をやり続けていたらここにたどり着いてしまった、という感じでしょうか。
僕は高校時代から本を書きたくて、企画書をつくっていたので、理Ⅲに受かったときも狂喜乱舞というような心の盛り上がりはなく、『やっと出版社に企画書を持ち込めるな』と思った程度でした」
「どうしても理Ⅲでなくてはならない」というなんらかの動機を胸に理Ⅲを受験する者は極めて少数派だ。ある東大医学部卒の研修医によれば、「本当に医者を志望して理Ⅲを受験した人間はせいぜい2割程度。あとはただ一番難しいテストが受けたかっただけの連中です。みんな口では『人のために働きたい』なんて言うんですけど、実際には自分の能力証明しか考えていない」のだという。つまり彼らにとっては理Ⅲの入試そのものが目的であって、その先にある医師という仕事は「その後の成り行き」に過ぎないのだ。
医者へのモチベーションが低いことの証左とも言えるのが、東大医学部の医師国家試験の合格率だ。日本一筆記試験に強い人間が揃った東大医学部生の2013年の医師国家試験合格率は、94・4%。一見高く思えるが、なんと全国で17位。ちなみに前年は92・7%で27位だった。日本大学医学部や、順天堂大学医学部など、入試の偏差値からすれば彼らが歯牙にもかけなかったであろう医学部が、はるか上位にランクインしているのだ。
「東大は、国家試験のための勉強をほとんどしないんです。講義でも試験対策などは一切しない。学生も教授も、対策などしなくとも受かって当然と思っているし、実際にほとんどの学生はそれで受かってしまうんですけど、落ちる人も当然出てくる」(東大医学部5年)
名医を輩出しにくいもう一つの大きな理由は、そもそも理Ⅲに合格する才能と、医者の才能はまったく関係がない、ということだ。心臓外科の名医、東京ハートセンター・センター長の南淵明宏氏(奈良県立医科大学医学部卒)は、東大医学部を痛烈に批判する。
「受験勉強ができるというのは、単にクイズができるだけなんです。医者の資質とは別物です。東大医学部出身の医者で尊敬できる方を、私は一人も知りません。