二宮清純 レポートプロ野球開幕特別版
牧田和久(西武ライオンズ投手)サブマリンの美学

現代ビジネス編集部 プロフィール

ひとを喰ったピッチング

 牧田の武器は「ホップするストレート」だけではない。投球のタイミングを微妙に変え、バッターの目を惑わせる。

 入団1年目の5月のことだ。東北楽天の強打者・山﨑武司(現中日)に対し、牧田はランナーがいないにもかかわらずクイックモーションを使用した。

 おちょくられているように感じたのか、打席で山﨑は声を荒らげた。

「オマエ、正々堂々と勝負できんのか!」

 結局、その試合、山﨑は3打席連続三振を含む4打数ノーヒットに封じられた。

「山﨑さんは怖いバッター。意表を突いたことをやらないと抑えられない。僕からしたら、山﨑さんに敬意を表しているから、そうやったんですが、逆にとられたみたいで……。でも自分自身、悪いことをした意識はないので、ビビッたりはしなかったですね」

 並のルーキーなら球界の大ベテランに怒鳴られれば縮み上がってしまう。しかし、牧田はマウンド上で顔色ひとつ変えなかった。この男、思いのほか、図太い神経の持ち主なのかもしれない。

 変幻自在のピッチングは左足の上げ方にも表れている。ゆっくり上げたかと思えば、次はひょいと上げてみたり。摺り足に近い状態の時もある。これを牧田は造作もなく使い分ける。

 梨田の解説。

「あれは僕に言わせれば"ひとり時間差投法"だね。バッターはタイミングをとるのが大変ですよ。車にたとえるならロー、セカンド、サード、トップの順でギアを切り換えるところを、いきなりトップに入れたりすんだから……。

 でも、プロに入ったばかりの頃は、クイックモーションひとつとっても、あそこまで器用ではなかった。アンダースローで生きていくにはどうすればいいか。それを考えて必死で練習したというんですから、精神的にもしっかりしたものを持っているんでしょうね」

 アンダースロー投手としてはプロ野球史上最多の284勝をあげた山田は牧田のリリースポイントに注目する。

「我々のようなアンダースローはボールを曲げたり落としたりするからボールを離す位置が変わりやすい。ところが彼は一切、変わらないね。これには感心します。

 だからバッターはストレートとカーブの見分けすらつかないんじゃないかな。上にフワーッと浮いてくるカーブがストレートに見えているのかもしれない。阪急の先輩である足立光宏さんが、ああいうボールを投げていましたよ。