二宮清純 レポートプロ野球開幕特別版
牧田和久(西武ライオンズ投手)サブマリンの美学

現代ビジネス編集部 プロフィール

 狙うとしたら変化球。引っ張ったら彼の術中にはまってしまう。かといって右へおっつけようとしたら、ヘッドが下がって逆に差し込まれかねない。最後の手段はセンター返しかな。足元目がけて、強いゴロを打つ。今の牧田を攻略するとしたら、それしかないでしょう」

 辻がベタ褒めするのも無理はない。'11年、ドラフト2位で埼玉西武に入団した牧田は1年目、いきなり55試合に登板し、5勝7敗22セーブ、防御率2・61という好成績で新人王に輝いた。先発でスタートしたが6月にはクローザーに転向し、チームのクライマックスシリーズ出場に貢献した。

 2年目の昨季は先発に専念し、13勝9敗、防御率2・43。13勝はチームの最多勝ち星でもあった。

 牧田の最大の武器—それは「下から浮き上がってくる」と言われるストレートである。深海から何の前触れもなく浮上する潜水艦のように、ホームベースの手前から急に勢いを増し、キャッチャーミットを突き上げるのだ。

 北海道日本ハムの監督時代、梨田は選手たちに、こうアドバイスした。

「スピードガンにだまされるなよ」

 これはどういう意味か?

「牧田のストレートはスピードガンの表示以上に速く見えるんです。だから、なかなか腰の据わったバッティングができない。ウチのバッターが遊ばれているように見えましたよ。

 同じアンダースローでも千葉ロッテの渡辺俊介のストレートがフワーなら、牧田はビュッという感じ。打席での体感速度は、スピードガンでは表示し切れないと思いますよ」

 WBCでも三振を奪ったほとんどのボールが引力に抗って離陸する高めのストレートだった。

「彼のストレートを見ているとソフトボールのライズボールを思い出します」

 そう語るのはWBCのテレビ解説も務めた名捕手の古田敦也だ。

 ちなみにライズボールとは打者の手元で浮き上がる"変化球"のことだ。ソフトボール元日本代表の高山樹里が得意にしていた。

「WBCでもそうでしたが、顔くらいの高さのボールを振るバッターが多かった。外国人にすれば、今まで見たことのないボールの軌道だったはずです。高低、両サイドを使いながら、最後は真ん中高めに構えて、注文どおりストレートで三振のとれるピッチャー。キャッチャーにすれば、これほど爽快なピッチャーはいないですね」