NTTはどこへ行くのか
【第5章】NTTグループと海外進出の歴史(1)
NTTの弱点は電気通信事業法による制約

和田紀夫氏(NTT持株会社、相談役) 〔PHOTO〕gettyimages

第4章(2)はこちらをご覧ください。

 2011年7月7日、私は大手町にあるNTT本社の広い役員応接室にいました。当時、会長だった和田紀夫氏(現相談役)にインタビューするためです。

 私が初めて同氏と会ったのは、たぶん2003年の晩秋だったでしょう。当時、ダイヤモンド社が発行していた月刊誌『ループ』に私は連載を持っており、2003年の9月号で「電話業界の異端児か、救世主か---IP電話の本質とその課題」と題する記事を書きました。そのレポートを見て同氏から「会いたい」との連絡をうけました。

 帝国ホテルだったと覚えていますが、初めてお会いした和田社長(当時)は、IP電話の記事を手に「ここに書いてあることは『本当か』とまわりに聞いたら、その通りだと答えが返ってきた。(中略)IP電話の普及は、我が社にも大きな影響がある。君の意見を聞かせて欲しい」と単刀直入に質問されたことを思い出します。

 この時期は光ファイバー網(Bフレッツ)整備が始まった頃。後に、ユーザーの固定電話離れが進む中で、和田氏はNGN(ネクスト・ジェネレーション・ネットワーク)という大きなプロジェクトを進めます。しかし、お会いした当時は、そんなことは想像もできませんでした。

法律に規制されるNTTグループ

 和田氏との久しぶりのインタビューは、光ファイバー整備の話や研究所の運営、イワン・サイデンバーグ氏(ベライゾン・コミュニケーションズの元会長、米国第2位の通信事業者)とのやり取りなど、次から次へと話題が広がりました。

 同氏の社長時代は波瀾万丈です。固定から携帯へと事業の主役がかわり、台頭するインターネットへの対応に追われました。それは、むかし風の電話会社から総合テレコム事業者へとNTTが脱皮する時期でした。同氏の足跡と言えば「世界に先駆けた光ファイバー網整備」が有名ですが、インタビューの中で特に印象深かったのは再編に伴うグループ経営の難しさです。

 「NTTは再編を契機に危機感が広がった。NTTの名前を社名からはずして『独立したい』というグループ会社もあった。しかし、私は、まとまらなければ今後の成長は難しいと思い、グループの結束に力をいれてきた」と和田氏は当時の方針を語っています。

 同氏の指摘する「NTTの再編」とはNTT法によって1999年におこなわれた同社の分割のことです。

 もし私が米国の投資家だったら、NTTの弱点は「電気通信事業法による制約だ」と考えるでしょう。電気通信事業法では、NTTグループの共同営業の禁止や接続規制など、より実質的な事業遂行上の大きな規制です。つまり、事業法の支配的事業者規制(接続規制と行為規制)が、大きなハードルとの認識です。

 つまり、NTTにトヨタやソニーのような「完全な経営の自由」はありません。それは同社が担う公益性、言葉をかえれば、国民の通信サービスを最終的に支える通信事業者という立場です。しかし、株式会社としてKDDIやソフトバンクなどの競争相手とマーケットで戦うことも、求められています。この背反する要素を抱え込んでいることで、同社の経営は複雑になっています。770社を超えるNTTグループの経営を考える上で、このNTT法の影響は避けて通れません。

 NTTグループの組織や体制と、その裏に潜むNTT法の影響について説明して見ましょう。すこし単調ですが、お付き合いください。

 いまはあまり使われなくなった固定電話ですが、1980年代までは通信サービスの主役でした。この電話は公共性が高い一方、インフラ整備には莫大な費用がかかります。アメリカは、AT&T(マザー・ベル)が地方の小さな電話会社を買収し、全米最大のテレコム・キャリアになりました。しかし、これは例外で、多くの国では、政府の独占事業として電話の普及をおこないました。

 日本でも電話は政府の独占事業としてあゆみ、その後、日本電信電話公社として官営時代が続きます。しかし、1970年代には実用的な光ファイバーが登場し、大きな技術革新が訪れます。それにともない民間企業が、電話事業に参入できる状況になりました。

 米国では1984年1月に世界最大の電話会社AT&T(マザー・ベル)が、長距離と地域会社に分割されます。これに続いて電電公社も株式会社に経営のかたちをかえて、通信マーケットの開放を促すことになりました。1985年のことです。このとき、電電公社を株式会社にする際に制定された法律が『NTT法』です。

 国民の通信サービスを一手に担ってきたNTTは非常に公益性が高く、完全な民営化はできません。完全に民営化すれば、海外の投資家が株を買い占めて経営権を握ったり、外国企業によって買収される可能性があります。そうなると、国民に通信サービスを提供する最後の砦がなくなってしまいます。

 この通信サービスにおける公共の利益は大きな問題で、アメリカ連邦議会は2012年10月、中国の通信機器ベンダー2社(ホアウェー、ZTE)の機器を大手電話会社が採用しないように求めるとともに、同社による米国企業の買収を拒否する議会報告書を出しています。

 また、民営化された時点では、NTTの市場に対する影響力が大きいため、規制によってその力を制限し、新規事業者の参入を促すことも必要でした。これを非対称規制と呼びます。

 こうした背景があるため、株式会社にはなりましたが、NTT法と電気通信事業法によって同社は規制を受けています。これは外国人役員の制限や外国人による株式保有率制限など多岐にわたります。この「法律で公益性を求められている」点は、KDDI やソフトバンクなどの純粋な民間企業とNTTが大きく違うところです。

〈次回につづく〉

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