第3章(3)はこちらをご覧ください。
米国の中部にあるカンザス・シティーといえば、街のあちこちを噴水が彩り、カウント・べーシーやチャーリー・パーカーに代表されるスイング・ジャズが有名です。2012年9月、グーグルはこの街に光ファイバーを張りめぐらし、毎秒1ギガ・ビットの高速ネット・サービスを開始しました。
もちろん、これは米国初の一般向けギガビット・サービスです。サービス名は「グーグル・ファイバー」。同サービスには光ファイバーを使ったケーブル・テレビもあります。
このニュースに喜んだのは、インターネットが好きなネット業界誌です。彼らは「グーグルと通信事業者の対決が始まった」と騒ぎました。これは「半分だけ正しい」と私は思っています。グーグルはインターネット接続サービスや光CATVで、大手通信事業者のAT&Tやベライゾンと戦う気はないでしょう。規模は大きいのですが、グーグル・ファイバーは、同社にとって単なる情報収集のためのテスト・プロジェクトです。
昔、グーグルがシリコンバレーの一角、パロアルト地区で無料の無線ホットスポットを構築したときも、同じように騒がれました。その後、グーグルはホットスポットを拡大しませんでした。しかし、同ネットワークのユーザー情報を使って、同社のオンライン広告はずいぶん改善されました。ですから、グーグル・ファイバーが始まったからと言って、同社が全米に光ファイバーを張るようなことはないでしょう。
とはいえ、私にとって、グーグル・ファイバーは戦慄を感じさせる存在です。当面の目標は、ギガビット接続やCATVの経験を通じて、インタラクティブなビデオCMなどの新たなサービスを開発することです。ですが、同実験の規模が大きいことが、私には気に掛かります。それは、グーグルが大規模な光ファイバー網の運用やCATV経営といった事業ノウハウ自身の取得を狙っているからです。
先ほど「通信事業者との対決は半分だけ正しい」と述べたのは、そのことです。グーグルの通信サービスはアメリカの電話会社などを相手にしていません。もっともっと規模が大きく、全世界を網羅する新しいテレコミュニケーション・ネットワークを考えています。本章では、グーグルの戦略を分析しながら「いよいよ通信の未来について」深く彫り込んでゆきましょう。