運動は「栄養素」だ! 昔の変な伝統もけっこう正しい、その理由

『ジムに通う人の栄養学』
岡村 浩嗣 プロフィール

ある競技の日本代表チームの栄養・食事をサポートしている管理栄養士が、「自分たちがやっているサポートは科学的に正しいんだろうかと思うことが増えてきた」と相談に来たことがあった。

「理屈を考えたり理解したりしようとする習慣がないことが問題なのだろう」とも言っていた。

現場主義というのは大切だと思う。しかし、すぐに現場に役立つ技術や方法を身につけようとするあまり、その技術や方法がどういう理屈に基づいているのかを理解することが軽視されているのだろう。

このような傾向はスポーツ界に限らず、現在の我が国の社会に共通した傾向だという気がする。

スポーツ界で「運動中に水を飲んではいけない」といわれていたのは、それほど昔のことではない。しかし、塩分も補給しなければ水分は体内に貯留されないことが科学的に証明されたことは、暑熱環境下での労働では水分だけではなく塩も摂っていたのが正しかったことを裏付けた。

だから、スポーツ界で「水」を飲んではいけないといわれたことが、少々の皮肉を込めていえば、まったくの間違いではなかったのだといえないこともない。

かつてスポーツ選手は「体を冷やすから水泳はしてはいけない」といわれた。しかし、現在ではトレーニング後の整理運動(クールダウン)をプールでおこなうのは珍しくない。「交代浴」という冷水に入ったり出たりを繰り返す疲労回復法すらおこなわれている。

スポーツ界に、伝統的におこなわれてきたことに疑問を持ち、科学的な根拠を大切にする姿勢が醸成されていることを示す例だろう。

食品に含まれる成分の中で、ヒトが必要とするのは九つの必須アミノ酸、二つの必須脂肪酸、一三種類のビタミン、十数種のミネラルである。エネルギー源となる炭水化物や脂肪も成分も必要だが、アミノ酸から体内で合成されるから必須というわけではない。

食品は、これらの必須成分以外の物質で健康に役立つ物も含んでいるが、それらは必須ではない。

食事で大切だといわれる「栄養バランス」というのは、必須成分のバランスのことだ。三十数種の成分のバランスを取るのは難しそうな気がするかもしれない。

しかし、和食でも洋食でも、伝統的な食事で栄養バランスが十分であることは「意外に悪くない朝食」などとして本書で述べた。あまり難しく考える必要はない。

朝食はしっかり食べましょうといわれるが、寝る前に食べると太るといわれる。寝る子は育つともいわれる。摂取タイミングの影響である。

スポーツ栄養では、「運動後の栄養補給は早めに」というのが常識になっている。同じ物を食べても、運動後の回復や筋肉合成などの効果が高いからだ。

栄養とは、生物が生存し成長するために必要な物質を体外から取り入れて利用する営みのことをいう。運動は取り入れた物質がどのように利用されるかに影響するので、栄養素とみなしてよいのではないかと思っている。

(おかむら・こうじ 大阪体育大学大学院教授)

 
◆ 内容紹介
プロテインが筋肉づくりを促進することはない。ご飯などの主食を少なめにすると、栄養バランスが崩れる。このように、アスリートではない普通の人たちが運動をする際に知っておきたい栄養と食事の知識をわかりやすく解説。健康のためジムに通う人に向けた、スポーツ栄養学の入門書。
 
岡村浩嗣(おかむら・こうじ)
1984年、筑波大学大学院体育研究科修了。学生時代はボート部。大塚製薬株式会社佐賀研究所主任研究員、米国バンダービルト大学リサーチフェローなどを経て、2003年より大阪体育大学大学院スポーツ科学研究科・同大学体育学部教授。関心を持っている分野は栄養・食事と運動・身体活動との相互作用。編著書に『市民からアスリートまでのスポーツ栄養学』『親子で学ぶスポーツ栄養』(共に八千代出版)など。 www.okamurakoji.info