第11回はこちらをご覧ください。
経済学では、基本的に自由な取引がベストと考えています。しかし、自由な取引をした結果、「市場の失敗」が起こるケースもあります。
「市場の失敗」は、市場の原理に任せた結果、うまくいっていない状態なので、そのまま市場に任せていても、状況は改善されません。
---ではどうするのか?
そこで政府の登場です。政府は、市場の失敗が起きているところに行って、取引量をベストな水準に補正します。取引量が多すぎるようなら減らすように仕向け、少なすぎるようなら増えるように仕向けます。これを「資源の再配分」といいます。
具体的にどういう手段を使って、政府は市場の取引量を「補正」し、資源を再配分するのか、これから説明していきます。
keywordは「公共財」、「非排除性」、「非競合性」、「フリーライド」です。
政府が市場の失敗を補正する手段としては、「税金」や「補助金」などが考えられます。結論から言いますと、たとえば外部不経済を起こしている工場に税金をかければ工場の生産量は減り、外部不経済が修正されます。
一方、外部経済をもたらしている養蜂場には、補助金を出します。そうすることで、養蜂場は報われて、もっと蜂を増やすことができるでしょう。そして蜂蜜の生産量は社会的に見てベストな量まで増えていくのです。
ここで前回のグラフを使って、もう一度説明します。まずは外部不経済の事例から。
このグラフは外部不経済が起こると、取引量がどう変化してしまうか、を表しています。工場が自分で負担すべきコストを負担せず、社会的コストが発生しています。そうすると、工場が負担する費用は本来よりも安くなるので、その分供給曲線が右に動いています。
需要曲線は変わっていませんが、供給曲線が動いたので、均衡点が右下に移っていますね。均衡取引量が増え、均衡価格が下がったということです。
ここで、政府がこの工場に税金をかけるとどうなるでしょう?
工場に税金をかけるということは、工場の負担が増えるということです。消費税が高くなると皆さんの負担が増えて、買い物がしづらくなるのと同じで、工場も税金をかけられると生産しづらくなります。
正確に言うと、かけられた税金の分だけ、「生産コスト」が増えるのです。この工場は負担すべきコストを負担しないので、供給曲線が下に動いていました。だったら、そのコストの代わりに税金を払わせれば、供給曲線は元に戻るはずです。そうすれば、取引量は社会的にベストな量に戻り、「市場の失敗」は補正されます。
---これで問題は解決するのか?
これだけでは、取引量と取引価格が元に戻るだけで、工場が近隣の漁師にかけている迷惑はなくなりません。「迷惑」に関しては直接的な解決策になっていないのです。
しかし、工場からすると、コストを負担しないで済んだと喜んだのもつかの間、罰として、そのコストと同額の税金を課せられてしまったことになります。だったら、最初から自分が負担すべきコストを負担した方がいい。そうすれば、漁師に迷惑をかけることもありません。そのようにして間接的に公害を減らすことができます。
では、続いて外部経済の例を説明します。政府が補助金を出すと、どういう理屈で市場の失敗がなくなるのでしょう?
このグラフは外部経済が起こると、取引量がどう変化してしまうか、を表していました。
養蜂場があるおかげで、隣のリンゴ農園がアルバイトの人件費を払わなくて済んでいます。これは経済学的には、「りんご農園がコストを負担しないで済む」ではなく、「養蜂場がリンゴ農園の代わりにコストを負担している」状態と考えます。養蜂場はリンゴ農園が支払うべきコスト(社会的コスト)まで負担し、そのせいで、供給曲線が左に動いてしまっています。
蜂がしている授粉作業にも「人件費」を払う意味合いで、リンゴ農園が蜂を管理する費用を少し負担してくれれば、養蜂場のコストは少なくなり、供給曲線が右に動きます。ベストな状態になるんです。でもリンゴ農園が「お宅の蜂さんにはいつもお世話になっています」といって養蜂場にお金を払うとは、ちょっと考えにくいですよね。
そこで、リンゴ農園の代わりに政府がそのお金を払うんです。政府が補助金を出せば、同じ効果になって、供給曲線が右に動き、「市場の失敗」は補正されます。