[裏方NAVI]
花谷遊雲子(管理栄養士)<後編>「選手の“本気”に挑む“覚悟”」

スポーツコミュニケーションズ

本気が生み出す自己管理能力

 ところが、はじめのうちはなかなか思うように体重や体脂肪率は減らなかった。練習は他の選手と同じようにしっかりとこなしていた。相当な量のカロリーを消費しているはずだというのに、数字にはあらわれない。
「なぜ、減らないのだろう……どうしたらいいのだろう」
 そう思いながら、花谷は選手と自身の出した決断を信じ、辛抱強く続けた。それは選手の本気に支えられていた。

「正直、私の中でも『どうやって減らしたらいいんだろう』と悩んだこともありました。でも、選手が『私、このまま続けてみようと思います。体重はあまり変わらないけど、ずっと悩んでいた便秘がよくなってる! 身体が変わってきている証拠だと思うから、もう少しやってみます』と言ってくれたんです。私も『よし、わかった。もし、一時的に体重が増えたとしても、コーチには私からちゃんと説明しておくから。徹底的にやってみよう』と言いました」

 成果があらわれ始めたのは、約1カ月後のことだった。体脂肪率が減り始めたのだ。数字以上に見た目がシャープとなった彼女のパフォーマンスは確実に上がった。その後、彼女の体質はきちんと食べなければ体重が減ってしまうようになったという。努力の末に体質改善に成功し、最後のチャンスを掴み取ったのだ。4年後、北京の地でその選手が華麗に泳ぐ姿を、花谷はまぶしく感じたに違いない。

「管理栄養士の仕事は、1人1人との身体と向き合う責任……真剣勝負なんです。お互いに本気で向き合ってこそ、成果が出る。だからこそ、覚悟がいる仕事です。大事なのは先入観や固定観念を抜きにして、その選手を見ること。体質や体調はもちろん、性格や考え方を把握することも重要です。知識だけでなく、経験で磨かれていく感性も必要だと思っています」

ロンドン五輪の選手村での、ある選手の食事。体調の様子とともにメールで届き、アドバイスする

 昨夏、ロンドン五輪を経験し、チームに残留したメンバーたちにも、“本気”が見え始めているという。既に2016年リオデジャネイロ五輪に向けてスタートした中、数人の選手から「食事について、まだ隙があったので、これからは真剣に向き合って、しっかりと取り組んでいきたい」という声があがっているのだ。

 花谷は、世界最高峰の舞台を踏んだ経験値がいかに選手を成長させるかを今、痛感している。「ロンドンで世界を目の当たりにしたことで、本気で次のリオでのメダルを狙っている。だからこそ食事に対しても、より深く考え始めたのだと思います」花谷が最終目標とする「自己管理のできる選手の育成」は、確実に芽吹き始めている。

(おわり)

花谷遊雲子(はなたに・ゆうこ)
茨城県出身。管理栄養士。京都府立大学大学院食生活科学専攻課程修了。4年間の茨城県保健所勤務を経て、2000年にフリーに転身し、アスリートのサポー トに携わる。01年より国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部栄養指導室に勤め、五輪を目指すアスリートたちの栄養管理を手掛ける。05年よりシン クロナイズドスイミング日本代表管理栄養士となり、現在に至る。10年よりパーソナルトレーニングジムBODY TIPS(渋谷区)で一般向けのカウンセリングも行なっている。
編集部からのお知らせ!