[裏方NAVI]
花谷遊雲子(管理栄養士)<後編>「選手の“本気”に挑む“覚悟”」

スポーツコミュニケーションズ

“食べる”減量法での挑戦

 そこで、花谷が提案したのは「食べるダイエット」。1日の摂取カロリーを8時間の猛練習に耐え得るであろうギリギリの1600キロカロリーにすることだった。これは1日3500キロカロリー前後の食事を摂る他の選手の約半分である。それでも、選手は「太ってしまう……」と食べることを怖がった。
「1日の体重変動は、水分などによって左右されるもの。あなたにとって重要なのは、トータル的に見た体脂肪率を減らすことだよ。それは長いスパンで見ていかなければならない。食事の量とあわせてバランスとタイミングを整えれば、必ず身体は変わる。とにかく、まずは選考会までの2週間、やってみようよ」
 この花谷の言葉に、選手は少し迷いながらも首を縦に振った。

 その日から2人の挑戦がスタートした。その時期は、自宅に帰っての調整で、自己をコントロールすることは非常に難しかった。合宿や遠征時のような周囲からの強制力がないため、ついつい甘さが出てしまうのだ。ところが、彼女は花谷のアドバイス通りのメニューを作り、1日1600キロカロリーを守り抜いた。
「私が『どう? 辛くない?』と聞くと『辛くありません。だって、最後のチャンスですから』と言うんです。うわぁ、この子、本気の本気だなと思いましたよ」

「1回1回が勝負」と語る花谷。練習の様子を見ながら各選手にあった調整法を模索する

 2週間後、選考会を終えた彼女は、何とかAチームのメンバーに選出された。しかし、ダイエット自体はまだ効果をあらわしてはいなかった。そこで、2人は1600キロカロリーの摂取量を継続することにした。だが、前例のない減量方法に、コーチは不安を隠さなかった。
「本当に大丈夫? 間に合うの?」
 それはコーチがその選手を戦力として見ていた故の言葉だったのだろう。「間に合わせてもらわなくては困る」と言いたかったのではないか。

 しかし、そんなコーチの言葉にも、花谷の考えが揺らぐことはなかった。
「食べずにダイエットをしても、それは一時的なものに過ぎません。逆に、筋量や集中力低下で練習の質を落としてしまい、他の選手にも影響を及ぼしかねません。彼女を北京に向けて強化していくのであれば、食事を摂りながらの長いスパンで身体を変えていくことが必要だと思います」
 花谷と選手の覚悟が伝わったのだろう。コーチの承諾を得て、再び2人の挑戦が始まった。

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