NTTはどこへ行くのか
【第2章】 クラウドという経営環境の変化(3)
NTTベリオ買収の教訓はなんだったのか

NTT持株会社、本社ビル(写真提供/NTT)

第2章(2)はこちらをご覧ください。

通信サービスからソリューション・サービスへ

 今回は、NTTのミスター・クラウドこと、NTT持株会社の奥野恒久氏(取締役、グローバルビジネス推進室長)とのインタビューを紹介しながら、NTTのクラウド戦略を考察していきます。ですが、その前に、なぜ通信事業者がクラウド市場に参入するのか、その理由をもう少しまとめてみましょう。

 前回お話ししたとおり、大手通信事業者は音声収入の減少になやみ、携帯データ収入でそれを補完できる保障はありません。そうなれば通信ビジネス、特に携帯事業で成長を維持してきた大手通信事業者にとって難しい問題を引き起こします。

 通信事業者がそうした状況に追い込まれた切っ掛けは、アップル社が発表したアイフォン(iPhone)にあると私は考えています。その後、グーグル社やマイクロソフト社を筆頭に、コンピュータ業界はモバイル・アプリケーションに力を入れ、世の中が一変しました。人々は音声通話ではなく、モバイル・アプリケーションにお金と時間を使うようになったのです。そしていま、タブレットの出現により、この傾向はますます加速しています。

 この変化をもう少し深く考えてみましょう。つまり、スマートフォンやタブレットの出現で一体何が変わったのでしょうか。もっとも根本的な違いは、携帯などのモバイル機器が『ツール(道具)』ではなく『ソリューション(解決策)』を提供し始めたことです。スマートフォンはポケットに入るパソコンであり、ソリューションを提供できる高い能力を持っています。

 たとえば、東京の人が大阪に出張したとしましょう。お昼になり「おなかが空いてきた」とします。スマートフォンがあれば、土地勘がなくても、携帯アプリで近くにあるレストランをリストアップして、良さそうなお店を見つけることができます。あるいは、フェースブックやツイッターを使って、知人や友人からお薦めのお店を聞き出すこともできるでしょう。

 一方、知らない場所でレストランを探す場合、電話の音声サービスは余り役に立ちません。昔なら分厚い電話帳を開いてレストランを探すこともあったでしょう。しかし、いまや電話帳を見つけることも難しい状況です。この差こそ、まさにツールとソリューションの違いなのです。

 携帯アプリケーションを使わないとすれば、レストランに詳しい人に電話を掛けるて良いお店を教えてもらわなければなりません。日頃から、誰がその場所のレストランに詳しいかを知っておき、その上でその知人に電話やメールしてアドバイスをもらいます。

 つまり、『レストランを探す解決法(ソリューション)』は、電話にはなく、ユーザー自身が考え、必要なデータを保存しておかなければなりません。結局、電話のボイス・サービスや電子メールのメール・サービスは、情報を伝達する道具に過ぎないのです。

 一方、携帯アプリケーションは、たとえば「ユーザーの所在地を確かめて、適切なレストランをリストアップする」「色々なニュース・サイトを回って記事を集めて見せる」「予定を管理して、必要に応じて事前に知らせる」といったように具体的な解決策を提供します。いまや、人々は「便利な道具」ではなく「具体的なソリューション」を求めています。音声サービスが衰退するのは、こうした理由のためです。

 第1章で述べたように、2007年、当時社長だった三浦惺(さとし)会長は中期経営計画で「ソリューション・サービスの開拓とグローバル事業の拡大」という目標を設定しています。このときNTTは、これまでのように携帯のボイス収入に頼って成長が続けられないことを予想しています。また「時代がソリューション・ビジネスへと移っている」との認識もあったのです。

 その後、世界の主要通信事業者がクラウドに参入しているのですから、この経営計画は先見の明があったと言えるでしょう。とはいえ、2007年といえば、まだクラウドがブームを迎える前ですから、同計画に述べられているソリューション・サービスとは、一般的なホスティング・サービスなどを意識したものだったでしょう。

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